沖縄OIST発の高吸水性ポリマー 世界の農家を水不足から解放

ナラヤン・ラル・ガルジャール|EFポリマー 

生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」への注目が経済界で高まっている。「Forbes JAPAN 2023年11月号」では、先進的なプレイヤーたちの取り組みを特集した。

大幅な節水に土壌の保全、作物の収穫増量に農家の所得向上をすべて実現。夢のようなポリマーは、家族を助けたいという青年の素朴な思いから生まれた。


地球温暖化による気候変動などの影響で、世界中で水不足や干ばつが深刻化し、各地の農家が農作物の生育不良に直面している。この問題を、オレンジの皮などの残渣を原料に開発した完全オーガニックな高吸水性ポリマーによって解決するのが、インド出身のナラヤン・ラル・ガルジャールが創業したEFポリマーだ。
 
同社の製品は農業用途で自重の50倍の水を吸収することができ、土に混ぜると約6カ月にわたり吸水と放出を繰り返して土壌中の水分を保つ。これにより、農業用水の大幅な節約を可能にするのだ。実証実験では、使用する水を従来の約40%、肥料を約20%削減する一方で、農作物の収穫量を約15%、農家の所得を10~15%増加するという結果が出ている。さらに、完全生分解性をもつため、土壌に悪影響のある残留物を残さない。製造過程では自然エネルギーを活用するなど、環境面への配慮も行き届く。
 
ナラヤンがEFポリマーのアイデアを着想したのは高校生時代。農業を営む父親が、水不足で作物が育たず困っていたのがきっかけだった。

「ラジャスターン州にある人口300人ほどの小さな村で生まれ育ったのですが、インドのなかでも特に雨の降らない地域でした。トウモロコシなどを育てていた父は、当時、科学に興味があり勉強していた私に『なぜ科学の知識で助けてくれないんだ。何か方法を考えてくれ』と言ってきたのです」
 
さまざまな農法を調べるなかで、既存の保水手段は貧しい農家には高コストで手が出せない、環境へ悪影響を及ぼすといった課題があると知り、自然に優しいソリューションが必要だと考えたナラヤンは、果物の皮を実際に土に埋めるところから検証を始め、インドの大学在学中に起業する。その後、金銭面・技術面で開発が難航していたところ、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のスタートアップ支援プログラムに採択されて来日。技術を確立し、20年3月にEFポリマーを設立した。

「完成するまでに1万回はテストをしたのではないでしょうか。どうしたら自然の力を有効活用できるか、課題解決に生かせるかを起点にソリューションを考えています。そういったアプローチは、ほかの研究者や開発者と異なるかもしれません」
 
製品はすべてインドで製造され、これまでに主にアメリカ、日本、インドなどの5カ国で160t超を販売。24年3月までに新工場を開設し、月100tの生産体制を構築する予定だ。農業以外の領域へも進出し、中身が100%オーガニックな保冷剤、そのほかに生理用品や化粧品など、企業との共同開発を進める。
 
さらに将来目指すのは、世界各地に工場を建設し、現地で収集した残渣をアップサイクルして高吸水性ポリマーを製造する、地産地消型のサーキュラーモデルだ。ナラヤンは今後の展望を次のように話す。「世界中の人々にEFポリマーを使ってもらいたい。水不足に困る農家を、ひとりでも多くなくすことに取り組んでいきたいです」


ナラヤン・ラル・ガルジャール◎インド・ラジャスターン州出身。大学で農業工学を専攻。2019年に沖縄科学技術大学院大学(OIST)のスタートアップ・アクセラレーター・プログラムへの採択をきっかけに来日。20年3月、完全オーガニックな高吸水性ポリマーを手がけるEFポリマーを設立。

文=加藤智朗 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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