英国は昨夏、欧州の大半を襲った厳しい熱波により猛烈な暑さに見舞われ、7月に観測史上最高の気温40.3度を記録した。欧州でも古い住宅が多い国で、このような極端な高温は人命に対する非常に現実的な脅威となる。
全体として2022年は英国で観測史上最も高温の1年となった。
地球温暖化が進むにつれ、熱波は頻度と激しさを増すと予想されている。そして、熱中症関連の死者数は年によって差異が大きいことが多いにもかかわらず、イングランドでは増加傾向にあるようだ。
ONSの統計によれば、1988年以降の熱中症関連死は約5万2000人。そのうち約3分の1が2016年以降に起きている。
この数字は人口増加の影響を加味していないが、気温の上昇と「極端な熱波」の頻度が増していることを考慮すると、暑さによる死者数の増加は「意外ではない」と専門家は警告する。
ONSの報告書に携わったロンドン大学衛生熱帯医学大学院のアントニオ・ガスパリーニ教授は、「気候変動によってこの状態が常態化することを強く警告するデータだ」と述べた。
データでは、気温が22度を超えると全国的に熱中症関連死のリスクが上昇し始めた。死亡リスクが最も高かったのは、気温が29度以上となったロンドンだった。
「ロンドンでは通常、夏の気温は他の場所よりも高くなる」「人口密度が高い都市部では、ヒートアイランド現象も加わる」とガスパリーニは指摘。人命への明らかなリスクを考えれば、「適切な気候・公衆衛生対策」の導入がいっそう喫緊の課題となると語っている。
専門家は、英国には欧州でも特に古くてエネルギー効率の悪い住宅があり、多くの住民が暑さにも寒さにも耐性のない状態で暮らしていると警鐘を鳴らす。冬の寒さもまた、命にかかわる問題だ。
英政府は先に、2050年までに温室効果ガス排出量「実質ゼロ」を目指す計画の一環として、住宅のエネルギー効率改善政策を打ち出した。しかし、リシ・スナク首相が先週発表した炭素削減計画の修正案は、公約の一部が骨抜きにされていると非難を浴びている。
たとえば、英国の住宅の大多数で暖房に使用されているガスボイラーの段階的廃止は延期され、賃貸物件の断熱化を大家に義務付ける政策は廃止された。
政府は修正案について、「より公平」で家計の節約につながると説明している。だが、ガスパリーニら科学者は納得しておらず、「英政府が(排出量)実質ゼロと温室効果ガス排出削減政策全般の公約を後退させたわずか数日後に、暑熱関連死の報告書が発表されたことは、非常に示唆に富んでいる」と述べている。
(forbes.com 原文)