経済・社会

2023.11.10 10:45

「自然か、開発か」の先へ 石垣島が目指す地域循環共生圏のありかた

生物多様性と八重山地域の自然資本

今回の「やいま食卓会議」のプログラムをコーディネートしたのは、藤田信太郎さんだ。東京でテレビ番組制作を本業にする一方で、一般社団法人ローカルSDGs推進支援機構のCCO(チーフ・コンテンツ・オフィサー)を務め、沖縄県の地域プランナーにも登録している。4年前から石垣島の美しい海に魅せられ、環境保護の活動を続けてきた。

藤田信太郎さん

藤田信太郎さん

今回の食卓会議が行われた八重山諸島は、日本最大のサンゴ礁と、世界自然遺産に登録された西表島をはじめとする陸域の生物多様性が合わさった、非常に稀有な地域だ。今、国際的にも「生物多様性の回復」、つまりネイチャーポジティブであることが経済活動に求められているが、先述したように、石垣島にはコロナ前から多くの観光客が押し寄せ、海の汚染により珊瑚の白化は加速している。

「もちろん珊瑚の白化の原因には様々あって、農薬を使うなと言いたいのではありません。ただ、自然を消費するようなこれまでの観光のあり方と同じく、農業や畜産業も、これからは環境を損なわないことは大前提で、『農業をやればやるほど環境が良くなる』というくらいまで当事者側の意識を変えていかないと、地域循環共生圏は実現できないし、地域の持続的な発展も難しくなってくる」

同じ想いの市民を巻き込んだ産学官連携「やいまSDGsシンポジウム」を2020年から毎年開催し、一次産業の多面的機能とその価値の向上に取り組んでいる。

商品の付加価値を高めるためには、1次産業にとどまらず、6次産業化や加工品販売なども視野に入れる必要が出てくるだろう。そうなると、生産者としてだけでなく、どんな商品が売れるのか、販路はどうしたらいいかなど、経営者としての視点も求められる。

「そんな時に頼りになるのが、(商品を売る場所である)東京へのコネクションだったり、農家さん同士の横の連携だったりすると思うんです。だからこそ、今回のフィールドワークは、石垣島の中でも農業が盛んで、農家のコアメンバーが多い嵩田地区で行いました。この食卓会議が意識改革のきっかけのひとつになれば」

そんな藤田さんとともに、石垣側のリーダーとして「みんなで地域の夢を語る場にしたい」とこの食卓会議に臨んだのが、嵩田地区でマンゴー農家を営む「かわみつ農園」の川満起史(かわみつ・たつし)さんだ。2人が提案しているのが、新石垣空港から島の真ん中を横断する国道211線を「石垣フルーツストリート」と名付け、新たな人流を創出するグリーンツーリズム構想だ。

観光客の流れは、空港からフェリー乗り場に向かう島の外周ルートに集中している。そのため、フルーツ農家が集まる島中央の国道211号沿線に名前をつけて盛り上げ、石垣島を訪れる観光客と島の経済の根幹を担う一次産業事業者との接点をつくることが、サステナブルな地域おこしにつながると考えている。
 
かわみつ農園の川満起史さん

かわみつ農園の川満起史さん

川満さんがこのような活動を行う背景には「タケダ地区農家ネットワーク計画」がある。これは約30年前に川満さんの親世代の嵩田住民らが立ち上げた構想で、地域の農家同士をつなぎ、個々の力では実現の難しい経営上の問題や地域の課題について協力して解決を図ろうとするもの。これを今に合う形にしながら、島での実現を目指している。

「島の中でお金がうまく循環し、経済的にも時間的にもゆとりを生むようなシステムをつくりたい。そのために何ができるか。今回の食卓会議をきっかけに、それを島の若いメンバー同士で共有できたことはとても良かったと思います。この対話を一過性のものにしないで、課題に一つずつ向き合いながら、地域の活性に繋げていきたい」

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