三菱地所・プロジェクト開発部 内神田開発室 統括の広瀬拓哉をリーダーに、食や空間づくりのスペシャリストたちからなるコミュニティーメンバーが日本各地を訪問。地域でのフィールドツアーや体験を通して、地元の農業関係者らと意見交換し、地域と都市との持続的な関係づくりを目指す。これまでに奈良県曽爾村、秋田県男鹿市など全国4カ所で開催されており、この八重山が5カ所目となった。
今回のプログラムは3日間にわたって行われた。1日目は石垣島の産業を支える農家や畜産業者を訪ねるフィールドワーク、2日目は八重山の地域資源である自然や開発課題、オーバーツーリズム問題などについて学ぶサステナブルツアー、そして3日目には、石垣島のほぼ中央に位置する嵩田(たけだ)地域の公民館に、地元の食と農のプレイヤーたちが集結し、意見交換会を行った。
フィールドワークでは、「ポトリ果マンゴー」で知られるかわみつ農園や、石垣を代表するパイン農家の島本農園、3000坪の畑でヘナやプルメリアなどの苗木を育てる仲田園芸ヘナガーデンなどを訪れた。
「自然か、開発か」という二項対立をやめる
意見交換会では、「今の石垣地域のいいところは何か?」「これから2030年に向けて、石垣地域に必要なモノ・コトは?」などのテーマについて、東京からのコミュニティーメンバーと地域の人たちが混じった班に分かれて話し合いが行われた。「島の人と観光客が話せるツアーをつくりたい」「島の大切なものを観光客にもわかってほしい。本来はそれがゴールになるような観光であるべき」「自分たちには、今地域が抱える課題について取り組む、時間的なゆとりも経済的なゆとりもない。ゆとりを生むシステム、そして仕事以外のやりたいことができるだけの収入が必要」などの意見が活発に飛び交った。
なかでも印象的だったのが、花谷シロー石垣市議会議員と、その夫人で微生物を使った有機農業を行う花谷農園の花谷まゆさんの意見だ。
現在約5万人が住む石垣島には、年間約147万人もの観光客が訪れる。美しい海や自然が楽しめるリゾート地というイメージが強いが、ホテルやゴルフ場建設などの大規模開発は、地域固有の資源や自然資本を削っている状況であり、サステナブルとは言い難い。
また、珊瑚礁が隆起してできた石垣島の特性上、農薬や畜産の糞尿が海水へ流出しやすく、珊瑚の白化も進んでいる。オーバーツーリズムも問題で、ホテルやレンタカーの空きはあるのに、リソースが足りないせいで稼働不全を起こしているという課題もある。
「これは沖縄全体に言えることですが、どうしても公共事業や大型事業に頼りがちな経済的構造がある。しかし、これからは『来てくれる観光客』に依存するのではなく、地場産業や自治産業を観光と結びつけ、経済を地域循環させる仕組みが不可欠だと思っています。八重山の自然資本を損なわない農業や畜産が島の根幹を支えるブランドになれば、商品の付加価値は高まる。まずは自然環境を守ることが経済的な豊かさにつながるんだという地域の方々の意識改革が必要だと思っています」(花谷議員)
まゆさんも、こう続けた。
「『自然か、開発か』といった2項対立の考えにとどまっていることがまず問題だと思う。自然界のものを切り崩して稼ぐ、という価値観自体を変えていく必要があるのでは。石垣にはすでに観光客を受け入れるための多くの(ホテルやレンタカーなどの)機能があるのに、それがうまく稼働していない。いまあるものをうまく繋げていくためには、住民同士がもっと対話をしていかなければ(花谷まゆ)」