ネイチャーポジティブを経済界はどうとらえるべきなのか。経団連の西澤敬二に聞く

現状、NPに向けたビジネス創出の動きはまだ活発とは言えない課題認識をもっており、経団連では22年11月に十倉雅和会長の指示のもと、新たな環境政策としてグリーントランスフォーメーション(GX)、サーキュラーエコノミー(CE)、NPの3分野を一体的にとらえる「環境統合型経営」の推進を決定した。これらの環境課題は双方向に関連しあっており、単独でなく一体的にとらえて、自社の事業を見つめ直すことで、NPに関するビジネス創出につながっていくものと期待している。
 
アクションプランでは、そのための重要な取り組みを策定しているが、そのなかであえて重要なものを挙げるとすれば次の3点だ。1点目は、NP経営の普及に関する自然関連財務情報をはじめとする情報開示の浸透と、OECM(自然共生サイト)やNbS(自然を基盤とした解決策)といったGBF(生物多様性枠組)や国家戦略の実現に資する取り組みの呼びかけだ。具体的な行動を進めてもらうことで、まずはNPに取り組む企業の裾野を広げていきたい。
 
2点目は、円滑なNP経営推進のための環境整備に関する政策提言だ。23年6月に政府が公表した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023」には、「生物多様性への取り組みを認定する法制度」の検討や「自然資本の情報開示に関する企業支援」などが盛り込まれた。今後も政府や中央官庁と連携し、政策提言に取り組んでいきたい。
 
3点目は、日本の取り組みの発信・海外最新動向の把握だ。日本の国際競争力を高めるには、里地里山などを含む素晴らしい取り組みを海外に正しく理解してもらうことが大切だ。
 
NPに関連したビジネス創出という観点で、世界経済フォーラムでは、大きな機会が生まれる分野として、食料や土地・海洋利用、インフラ・建設、エネルギー・採掘の3つを挙げている。まずはこうした自然資本に依存度の高い分野でビジネス化に挑戦していく必要がある。
 
また、日本が3R(リデュース、リユース、リサイクル)などの取り組みで積み上げてきた循環経済にかかわる資源の効率化・再利用などの分野や、環境再生型農業なども大きなビジネス創出の可能性を秘めている。社会資本の老朽化や自然災害の激甚化などの課題を抱える日本にとって、NbSの代表例であるグリーンインフラなども重要なテーマになるだろう。
 
前述のEUに訪問した際、NPが気候変動の次の大きな潮流になるということについては誰もが口を揃えたが、具体的な取り組みは、まだ各国でそれほど進んでいるわけではないという感触も得ている。日本企業がビジネス機会ととらえ、前向きにチャレンジしていけば、この波をうまくつかめると信じている。


にしざわ・けいじ◎経団連自然保護協議会会長、損害保険ジャパン取締役会長。1980年慶應義塾大学経済学部卒業後、安田火災海上保険に入社。2014年損害保険ジャパン日本興亜専務執行役員、16年同社社長。22年より現職。

文・写真 =眞鍋 武

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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