世界的な新潮流であるネイチャーポジティブを経済界はどうとらえるべきなのか。経団連自然保護協議会会長の西澤敬二に聞いた。
2022年12月に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」で、「2030年ミッション」としてネイチャーポジティブ(NP)の考え方が掲げられたことは、非常に大きな意味がある。日本でも、23年3月に「生物多様性国家戦略2030」が閣議決定された。これらの枠組みや国家戦略はいずれもビジネスに関する目標が複数設定されており、企業に求められる期待と責任は非常に大きくなっている。このような状況を受けて、経団連自然保護協議会としても、この6月に30年のNP実現に向けた「アクションプラン」を策定したところだ。
実は、23年2月に経団連関連のミッションの団長として、サステナブル先進国といわれている欧州のベルギーとデンマークを訪問し、EU委員会や現地政府、企業の経営者らと意見交換する機会があった。近年、EUでは企業に対して「環境や人権」に関する情報開示やデューデリジェンスなどの規制を強化する動きが活発化しているが、意見交換した企業の経営陣は、こうした動きをポジティブにとらえていたのが印象的だった。
ある経営者は、「これらの規制を早期にクリアしていけば、EUの規制がグローバル・スタンダード化した際、自社の競争力強化や企業価値の向上につながる」と話した。地球環境への危機感というだけでなく、EUの政府や企業のしたたかさ、ルールメイキングのうまさといった戦略性も強く感じた。
このように、EUなどの先進国では、すでに有望な成長分野の獲得に向け、戦略的に動いている。日本企業は、デジタル化で後れをとり、気候変動でも後れをとった。次の潮流であるNPで世界に後れをとることがないように、イノベーションの機会ととらえ、価値創造につなげていかなければならない。
日本企業の現状について、23年3月に経団連の会員企業に対して実施したアンケート調査では、回答のあった326社のうち約70%が「サステナビリティ方針」や「環境方針」などに生物多様性を包含していると回答している。さらに約65%の企業で、生物多様性の担当部署を設置していることもわかった。日本企業の関心は高まりつつあるといえる。
一方で、アンケート回答の95%は大企業によるものだ。中堅中小企業の状況がこれと同等かはわからない。今後、大企業のサプライチェーンを含め、日本企業全体で取り組みを進めていくことが課題と認識している。
加えて、アンケート調査によれば、経営戦略や経営計画において、生物多様性を考慮していると回答した企業は約40%にとどまっている。インパクトのある具体的なアクションとなると、さらに限定的なものになるだろう。