次の世界的メガトレンド。動き出したネイチャーポジティブ経済

こうした可能性については日本政府も注目しており、環境省では30年に国内で45兆~104兆円のネイチャーポジティブによるビジネス機会がもたらされると試算した。環境省自然環境局長自然環境計画課生物多様性主流化室室長の浜島直子は、「生物多様性の保全に取り組んでもらうことはとても大切で国としてもありがたいが、これからは本業に結びつけることにも取り組んでもらいたい」と話す。
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同省は22年から有識者らによる「ネイチャーポジティブ経済研究会」を主催しており、今後は経産省や農林水産省、国土交通省など各省庁とも連携しながら23年度内に「ネイチャーポジティブ経済移行戦略(仮称)」を策定する方針だ。

環境ビジネスに詳しい有識者が口を揃える有望な領域のひとつが農業だ。IPBESでは、自然改変・生物多様性喪失の最重要課題に「土地・海洋利用変化」を挙げている。

「土地の改変の多くは、農地への転換に使われています。特に希少な生物種が多いラテンアメリカやアフリカなどの熱帯・亜熱帯では、森林開発の7割以上が農地開拓によるもの。しかし、農地に利用できる土地はすでに開発し尽くしているに近い状況。農地はいったん開発してしまうと、ほとんどの場合、農薬の使用でどんどん土壌が劣化していきます。また、水質汚染の大きな原因も農薬と肥料です」とアクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 サステナビリティ プラクティス シニア・マネジャーの齋藤倫玲は指摘する。

独バイエルは、この領域で大胆な事業転換を進めている一社だ。前述の通り、EU域内では30年にかけて農薬使用量が半減の見通し。バイエルのクロップサイエンス部門は農薬の世界大手だが、この方針は売り上げの大幅な減少を意味するものだ。そこで同社が投資を加速させているのが、農薬や肥料を使わずに、土壌の有機物を再構築し、水資源や生物多様性を回復させるリジェネラティブ(環境再生)農業だ。23年6月には、今後10年間の半ばまでに、1.6億haを超える農地で再生農業を実現していく構想を発表した。
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AIなどの最先端テクノロジーに基づく解決策だけでなく、自然がもつ本来の力を引き出すことで持続可能性を高めたり、新たな価値を生み出したりするNbS(Naturebased Solutions)というアプローチに大きな可能性があることもネイチャーポジティブ経済の特徴といえる。

欧米では一部の大手企業が積極的な取り組みを始めているが、この新市場はまだ黎明期だ。いま漕ぎ出せば、日本企業は大きな商機を掴める可能性がある。「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、50年のビジョン「自然と共生する世界」の達成に向けたゴールのひとつとして、年間7000億ドルの生物多様性の保全・回復に必要な資金不足を解消することを掲げた。

レスポンスアビリティの足立がまとめる。「世界中の投資家がこの領域にお金を流したいと思っている。それを使ってどうビジネスをしていくのかという視点が必要です。自然とうまく折り合いをつけながらより快適に暮らしていくためのビジネスをつくってほしいし、そうした企業には大きくお金が流れ込んでくるでしょう」。

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文=眞鍋 武

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