新型コロナ後遺症は、血中セロトニン濃度に関係か

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新型コロナウイルス感染症の後遺症(ロングコビット)で見られる症状の一部は、セロトニン濃度の低下で説明がつくかもしれないことが、ペンシルベニア大学の最新研究で示唆された。それが正しければ、ロングコビットの原因解明、さらには治療に光明を投じる最初の一歩になると期待されている。

2023年10月16日付けで『セル』誌に発表されたこの研究では、感染後3~22カ月にわたって症状が出ているロングコビット患者58人の血液サンプルを分析。急性期の新型コロナウイルス感染症患者60人、および後遺症が出ていない30人の血液サンプルと比較した。

その結果、ロングコビット患者において、感染前のレベルまで回復していなかった重要な分子がセロトニンだけであることがわかった。それが大きな意味をもつ理由を以下で説明しよう。

疾病プロセスの解明に向けた可能性

世界保健機関(WHO)によれば、ロングコビットとは、新型コロナ感染の疑いが強まる、あるいは確認されてから3カ月で新たな症状が継続または発現するもので、新型コロナ感染のほかに説明のつかない症状が、少なくとも2カ月にわたって続くという。

ロングコビットでは、疲労感、記憶障害、胸の痛み、頭痛、下痢、関節痛など、幅広い症状が現れるが、これらに限るわけではない。米疾病予防管理センター(CDC)のデータによれば、米国成人の13人に1人がロングコビットの症状を経験しているという。これは、新型コロナウイルス感染症にかかった人の5人に1人に相当する。


体を衰弱させるこの病気に多くの人々が苦しんでいるにもかかわらず、研究者らはいまだに、ロングコビットの原因解明に取り組んでいる状況だ。ペンシルベニア大学のチームによる研究では、その症状を説明できるかもしれないメカニズムについての知見が提供されている。

ロングコビット患者の腸内にはウイルスがわずかに残っているが、こうしたウイルスは、最終的に体のセロトニン産生能力を妨げる(腸は、体内でつくられるセロトニンの90%が存在する場所だ、と研究チームは説明している)。セロトニンは、脳と体の間で情報伝達を担う神経伝達物質だ。

セロトニンは、気分や消化、睡眠、吐き気、抑うつ、記憶などの調整に関しても大きな役割を果たしている。セロトニン濃度の低下は、記憶障害や疲労感、うつ、悪心をはじめ、ロングコビット患者が経験する症状の多くを説明できる可能性がある。
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翻訳=梅田智世/ガリレオ

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