余談めきますが、コンビニがおにぎりを売るようになったことで、海苔業界の風景が激変しました。弊社はコンビニエンス業界には卸しておらず、「小浅商事」という会社が、日本の大手コンビニエンスストアチェーン各社に海苔を卸していると思いますが、なにせ現状、海苔の生産量全体のうち、実に50パーセント近くがコンビニに行っていますからね。
そして、コンビニおにぎりは炎天下、車に数時間放置しておいても、まったくいたまない。これは、コンビニエンス業界がいけないわけではありません。日本では 酸化防止剤含有の食品を売ることが「合法」であり「正当」なのですから。
実は、あまり知られていませんが、海苔養殖に際しても、海の中に肥料(栄養塩)を相当量まきます。
川井:なんと、やはり菌を抑えるためですか。
山本:はい、そもそも、日本の植物で完全にオーガニックはあり得ません。だって、山の上で肥料をまいたら、海まで流れますから。その時点ですでに、オーガニックではない。
「添加剤天国からの脱却」を
山本:日本が本当に「復興」するためには、お話しした「ランチの値段」もですが、やはり、オーガニック以前に、「酸化防止剤を使わない国家」になっていかないといけない、と思います。たとえば今、食べているこのお弁当は、実は百貨店では売っていない。売れないんです。酸化防止剤が入ってないので。さっき、11時前に下の茶房から買ってきたものですが、賞味期限が今日の午後2時半です。
百貨店では、「作ってから○○時間は腐らない」ということを証明しないと仕入れてくれません。それを証明するためには酸化防止剤を使う以外、方法がないんですよ。
川井:日本の物流の仕組みにも問題がありそうです。
山本:そうですね。たとえばこういう飲み物(飲んでいる炭酸飲料を示しながら)を物流を通して流通させる場合、「賞味期限2年」などというものを作る必要がある。
そして、賞味期限2年のものを「生物」だけで作るのは無理ですよね。そうすると当然、酸化防止剤が入っているビタミン剤を使うしかなくなる。だいたい、商品がカビていたりすると、食品メーカーは一晩で倒産する可能性がありますしね。
かつて百貨店に、「無添加物コーナー」を作りましょう、と提案したことがあります。しかし、そうすると、そのコーナー以外の売り場のものが「全部添加物入り」であることを拡声器で宣伝することになってしまう。だから、「おもしろい」という感想はいただきましたが、実現はしませんでした。
しかし、そういった不都合な真実を明るみにしたくないという文化習慣がある限り、日本は本当の意味でも復興も成長もできないと思います。作り手も消費者も、事実を事実として咀嚼して受け止めるに足る教養をこそ、蓄える必要があるのではないでしょうか。
山本 嘉兵衛(やまもと・かへえ)◎1959年生まれ。学生時代にお茶の製造工場でアルバイトを経験し、1982年、大学卒業と同時に家業へ入る。2008年に代表取締役社長に就任。休日はゴルフやドライブ、写真撮影などをして過ごす。好きな被写体は、日本橋の桜や京都の紅葉など日本の四季。
川井潤(かわい・じゅん)◎元博報堂DYメディアパートナーズ、現在もアドバイザーを続ける。渋谷区CFO(Chief Food Officer)、食品メーカー多数、IT企業数社、その他地方行政、商工会議所等のアドバイザー。テレビ番組「料理の鉄人」企画ブレーン、雑誌「dancyu」、幻冬舎「ゲーテWeb」、産経新聞などへの執筆多数。食べログフォロワー数No.1(2023年10月15日現在60575人)。https://bunshun.jp/list/author/5fc076797765615903010000
https://toyokeizai.net/list/author/川井+潤
注:「にほんばし海苔弁当」は東京・日本橋髙島屋三井ビルディングの1階にある「山本山 ふじヱ茶房」でテイクアウトできる。1折2200円(税込)。