小粒なファミリービジネスだから動きが速い、おもしろい
山本:そこへ行けば、弊社は完璧にファミリービジネスで、株主が私と娘。なにしろ2人で株主兼オーナーを務めているので、私たちが「右と言えば右」ですし、「左と言えば左」という企業文化ではあります(笑)。言ってしまえば、ここがファミリービジネスの弱点にもなり得るかもしれないと同時に、面白いところでもあり、加えて、小粒(注:同社は資本金3400万円、従業員数86人<2023 年度>)だからこそ動きが速いです。逆に、速くないとビジネスはちっとも面白くない。いつも考えるのですが、大きい団体や企業、あるいは国で、弊社のような小規模同族会社くらい速い動きが取れればまさに無敵だと思いますね。
アメリカ人に味覚はないが「比較」と「テクスチャーセンサー」はある?
山本:この間ボストンで、弊社が作っている抹茶のポップアップ・ストアをやりました。そうしたら立ち寄ってくれたアメリカ人たちが、抹茶と牛乳とラズベリーが混ざってる飲み物を飲みながらおにぎりを食べるんです。このこともヒントですが、アメリカ人は日本人と全く違う味覚を持っていると私は思います。彼らには日本人にはないすばらしい「比較」能力がある。いわば、比較という「特殊味覚」を持っている。「比較」を言い換えるならば、「データ」です。
もちろん個人差は無視できないものの、われわれ日本人が、たとえば2日前に食べたものと今食べてるものの比較ぐらいしかできないとすると、アメリカ人は、1年前に食べた何か、10年前に食べた何か、先月食べた、先週食べたもの、多くの体験が脳内にデータとしてストックされていて、 それらと「今食べてるもの」を比べることができる。
しかもおもしろいのは、味で評価する代わりに「食感(テクスチャー)がいい」とか「悪い」とか、これの方がさっぱりしてるとか、クリスピーだ(パリパリしてる)とかで評価、審査する。
彼らは実におもしろい「比較味覚」と、テクスチャー・センサーを持っていると思いますね。
カリフォルニアで手巻き寿司バー「KazuNori」が大ブーム、1日2000本
山本:そんなふうに「テクスチャー」を重んじるアメリカ人たちが海苔の「パリパリ感」のおもしろさにとうとう気づいたか、と感じるムーブメントがあります。「裏巻き」で海苔を隠していた時代からは隔世の感があるブームです。手巻き寿司、ハンドロールで大成功、実に1日2000本売ってる店があるんですよ。弊社取引先でもある、カリフォルニアや東海岸で展開中の手巻き寿司専門店「KazuNori」、野沢和典氏が創業した「Sushi Nozawa」グループ傘下の鮨店チェーンです(編集部注:この「Sushi Nozawa」共同創業者のジェリー・グリーンバーグ(Jerry A. Greenburg)氏は今や国際的に展開するデジタル変革コンサルティング会社「サピエント」の共同創業者でもある野沢氏の旧友で、ちなみにハーバード大卒である)。
年間売上げ約1億円、まさに「コーヒー・チェーンのスターバックス」さながらの、ハンドロール専門寿司店チェーン。 ここから手巻き寿司ブームが起きているんです。
川井:立ち食い? テイクアウトオンリーですか?
山本:いいえ、テイクアウトもできますが、基本は20席から35席ぐらいの、着席、イートインです。回転率が超速で、滞店時間平均20分ぐらいなのではないかと思います。
寿司飯の温度や海苔のサイズも綿密に計算して切られています。オーナーがみごと緻密に計算してデザインしているんです。
日本でお寿司屋さんが、実際に丸めて、パチっと切ったサイズで手巻きを作りますよね。
それは海苔同士が「重なる部分」が極力少ないハンドロールを作るためです。重なりが大きくなると、食感が硬くなるので。