「1000年先」を見据えて
小山:これまで集めてきた絵画は1万3000点以上とのことですが、すべて京都で保管しているのですか。藤本:いえ、そのうちの約1000点はドイツのベルリンにあります。昨年から海外向けの販売にも挑戦しているので。面白いのが、屋号を「Casie」から「Kyoto Art Gallery」に変えたら、ものすごく売れるようになったんですよ。
小山:(笑)。ヨーロッパが京都に信頼を置くのは、街に数百年単位の時間が存在すると感じているからかと。例えばお茶の世界では「お預かりする」という言い方をする。つまり、茶碗は自らの「私物」ではなく、自分が一定期間預かって次世代に伝えていく「文化財」なんです。ということは、自らが生きている間に何か成し遂げなくてもいいし、逆に次の人にバトンをつなぐ存在にならねばならない。数百年先を思うという時間感覚は、東京に住み続けていたら得られなかったかもしれません。
藤本:確かに時間のとらえ方はぜんぜん違う。京都には「これからの1000年を紡ぐ企業認定」という制度があって、その審査会では「1000年先の事業計画はどうなっていますか」と訊かれるんです。
小山:人類があと何年生き延びられるかわからないときに?(笑)
藤本:はい。最初は僕も笑っちゃったんですが、認定されたら社内の意識がちょっと変わって。1000年先のアートや芸術表現を考えるワークショップを始めたり、「小さくてもいいから社会にインパクトを起こそう」という思想が生まれた気がします。
小山:素晴らしい。カルチャープレナーとして成功した人と、京都に在住する大学生10万人が結びつくことで、また新しい発想が生まれ、面白いことがたくさん起こったらいいですよね。
藤本:スタートアップだとIPOや出口戦略を求められますが、急成長をあえて追わず、しっかりとオセロの角をとりながら経営したいです。
小山:そこそこ儲かっていたらいいんですよね。前年比ダウンだと成長が止まったみたいに言われるけれど、僕は継続こそが最大の成長だと思います。
小山薫堂◎下鴨茶寮主人。京都芸術大学副学長。1964年、熊本県生まれ。放送作家・脚本家として活動する傍ら、2012年に京都の老舗料亭「下鴨茶寮」の経営者に。「伝統に寄り添いながら今を磨き続ける料亭」を目指す。
藤本 翔◎Casie代表取締役。1983年、大阪生まれ。父は洋画家。才能ある画家が経済的理由で創作活動を断念する現在のアート業界に課題を感じ、新しいアートのエコシステムを考案。2017年にCasieを創業し、現職。