永山:それらはすべて決まっていましたが、こういうデザインにしたいからシェイプアップしてボリュームを寄せようとか、設備関係は出したくないからそちらに固めてほしいといった変更はどんどんやりました。
より大事だったのは、事業者と一緒にストーリーを組み立てたことです。戦後の歌舞伎町は、沼地から復興が始まりました。
そうした土地の歴史を反映して「噴水」のシンボルになったのです。人々のエネルギーが渦巻き、下から噴き上げる活力ある街のイメージにピッタリでした。
水しぶきの表現をするためにガラスの反射を印刷でコントロールしましたが、ホテル内らどう見えるかを心配されました。そこでクライアントの偉い方にもヘッドセットを付けてVRの空間を歩いていただき説得しました。パターン生成や形状の検証などにプログラミングソフトやVRなどのテクノロジーを使っています。
秋吉:永山さんのように、意志の力で都市や世界を具体的に変えられる建築家の構築能力は大きいです。僕は子どもの教育も手がけていますが、彼らはゲーム上で構築の実践をしている。リアルな世界でそんな能力をもつ人が増えると、もっといい世の中になるはずです。ほしい空間は、自分で手を動かして実際につくってみる。誰かにやってもらう、決められてしまうのではなく、自分たちの力でものを生み出す文化が定着すればいい。
世の中は変えられる、と伝えていく
秋吉:僕は建築を、未来に対するギフトだと考えているんです。実際に世の中をこう変えられるというメッセージを発することが、建築家にとって必要だと思います。永山:私も子どもを生んで、未来に何を残すかをより考えるようになりました。「どうせ願っても実現しないし」みたいな“諦めモード”が多い世の中は嫌です。何かをやろうと思って誰かが意志をもったとき、それがかたちになるんだよと見せたい。
誰がつくったかわからないのに、私たちの琴線に触れるものが都市には多くあります。東京という不思議な都市の文化も、誰かの思いで紡がれてきました。私たちもそんな未来への思いを後に残していく必要があります。誰でも「思いをかたちにできる」と信じられる世の中にしたいですね。
永山祐子◎1975年生まれ。昭和女子大学卒業後、青木淳建築計画事務所を経て2002年永山祐子建築設計設立。代表作に 「LOUIS VUITTON 大丸京都店」「ドバイ国際博覧会日本館」など。武蔵野美術大学客員教授。
秋吉浩気◎1988年生まれ。「まれびとの家」が2020年グッドデザイン金賞受賞。近作は「東京学芸大学 Explayground」(小金井)、「オリーヴの森 The GATE LOUNGE」(小豆島)。著書『メタアーキテクト』ほか。