陶芸家と建築家の二刀流「境界をほぐす」工芸を世界へ

奈良祐希 陶芸家/建築家

金沢で350年以上の歴史を誇る大樋焼、十一代大樋長左衛門の長男であり、陶芸一家に育った奈良祐希。最新テクノロジーを活用しながら、陶芸と建築の融合を目指し、新しい工芸の価値を世界に発信する。

「建築家は感情をコントロールし、意識的に線を引きますが、陶芸家は手が動いているときは無意識で、感覚的にかたちづくっていくため、作品や建築の立ち上がり方がまったく異なります」

陶芸といえば、土をこねてろくろを回すイメージがあるが、奈良は建築現場でも用いられる3DCADやプログラミングでデザインを描く。その後、手作業で粘土の板からパーツを切り出し、感覚的に組み上げていく。代表作「Bone Flower」は、白い骨が花を咲かせたようなかたちではかなさとダイナミックさが共存。「空間を構成する工芸」(長谷川祐子/金沢21世紀美術館館長)と評され、金沢21世紀美術館に史上最年少で永久所蔵されている。

2021年に建築デザインラボEARTHENを立ち上げ、23年春には、初の建築物「Node」を金沢で発表した。住宅メーカーの新社屋だが、ギャラリーやカフェもあり、街に開かれている。建築設計の段階で、実際に土を手でこねて、建物の模型をつくる陶芸的なアプローチを取り入れ、「土建築」の可能性を示した。温もりのある土壁と現代的なガラスで構成された建物には、人々が出会う場になるようにとふたつの道が交差する。

海外で「日本らしい」と評される奈良作品。「モノで圧倒する超絶技巧の視点から抜け出して、はかなさや繊細さなどの哲学に日本らしさを感じられているのでしょう。陶芸と建築の世界を行き来しながら、あらゆる境界をほぐしていきたい」。

文 =督あかり 写真=広村浩一(Moog LLC.)

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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