サステナビリティへの取り組みが財務に与える影響を重視

Forbes JAPAN編集部
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──世界では非財務情報開示のルール形成が進んでいる。日本企業は今後どのように情報開示を進めることになるのか。

平瀬:大きく3つの流れがある。1つはISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が策定したサステナビリティ情報に開示基準だ。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みに沿ってサステナビリティ全般と気候変動関連の情報開示基準を明示している。これがグローバルにおけるデファクト・スタンダード(事実上の標準)だ。

2つ目が温室効果ガス(GHG)プロトコルだ。GHGの排出量を策定し報告する際の国際的な基準で、企業単体のGHG排出量(直接排出)だけでなくサプライチェーン全体における排出量もカバーしている。測定方法の教科書もでき始めている。サステナブル関連の情報開示基準の中でも一歩先を行っている。

とはいえ、ISSBとGHGプロトコルには課題もある。ISSBは、グローバルに活躍しているトップレベルの上場企業なら情報開示の妥当性があるが、特殊な事業ドメインの企業や中堅以下の規模の企業などにはなじまない。GHGプロトコルも社会実装までにはタイムラグが生じるだろう。そこで3つ目の流れとして、中堅・中小企業の情報開示を後押しする仕組みが求められている。

──23年8月に一般社団法人サステナビリティデータ標準化機構を設立し、代表理事に就任した。メガバンクやりそなホールディングスなど60の企業・団体が名を連ねている。機構を設立した理由は。

平瀬:ポイントは2つある。1つは非・大企業にフォーカスを当てている点、2つ目はサステナビリティ関連情報を銀行や行政機関による経営支援や金融商品に生かす流れをつくるという点だ。

日本企業の99.7%は中小企業だ。サプライチェーンや日本経済に与えるインパクトを考えると、非・大企業が使えるルールや方法を整備する必要がある。また、非財務情報を金融機関や行政機関が経営支援や金融商品などに使うとなれば、上場企業か否かが問われなくなってくる。ISSBやGHGプロトコルがトップダウンの動きだとすれば、我々はボトムアップで非財務情報開示を促していく。

日本には、サステナブルの観点で見ても「いい会社」が相当数あるが、中小企業だといちいち開示したりアピールしたりしておらず、大きな機会損失だと感じる。サステナ関連データを可能な限り多く収集し、必要とする企業や金融機関、行政機関などに供給することで「いい会社」を明るく照らし、日本経済を底上げするとともにサステナブルな世の中にすることが我々のミッションだ。

非財務情報開示関連の動き

2023年1月|「企業内容等の開示に関する内閣府令」などの改正が公表される
2023年6月|ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が非財務情報開示基準を公開
2023年8月|一般社団法人サステナビリティデータ標準化機構が設立


平瀬錬司◎国内最大級の非財務データバンク「TERRAST」を提供するサステナブル・ラボのCEO。大阪大学理学部在学中からサステナビリティ領域のベンチャービジネスに携わる。「一般社団法人サステナビリティデータ標準化機構」代表理事。

文=瀬戸久美子

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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