なぜ、今、カルチャープレナーなのか?歴史の周期が生み出す日本文化の世界展開

貿易だけでなく、各地の職人に原材料を供給し、作品づくりを指示した。また、京橋と築地に工場をつくり、蒔絵師、金属彫刻、刺繍、木地指物師、塗師などの職人を集めて生産も行った。現代風にいうならば、企画・製造・販売を垂直統合したSPA(製造小売業)だ。松尾こそ日本のカルチャープレナー第1号と言っていいだろう。

同社のパリ支店を訪ねるジャポニザン(日本物品愛好家)のひとりが、無名の画家ゴッホである。つまり、松尾は市場の拡大を超えて、未来の歴史に価値をもたらす間接的プレイヤーとなったのだ。これこそカルチャープレナーの真髄である。

KEYWORD5|ゴッホと日本美術
ゴッホが歌川広重の浮世絵を模写するなど、日本に影響を受けたことは有名で、起立工商会社パリ支店でもらった茶箱の蓋を油彩画にしている。日本文化の影響は「ジャポニズム」と呼ばれ、その後、欧米では着物をガウンとして羽織るなど大ブームになった。日本ブームは第一次世界大戦ころまで続いた。

今後、カネと文化という時間軸が異なるものを引き合わせるには、ウェルビーイングのように幸福感の間接的効果など新しい指標をつくる必要がある。そして日英の歴史から明らかなことは、社会構造の転換で何かが衰退すると、固有の文化の価値を再発見する人々が登場するという事実だ。カルチャープレナーは、文化成熟国で宿命的に登場する現象であり、いま、新たな一歩を歩み始めたといっていい。今年、Forbes JAPANは、京都市を「カルチャープレナーの聖地」にすべく、京都で大会を行う。次の歴史の一歩を日本から世界に届けたい。それが私たちの思いだ。

文=藤吉雅春

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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