カルチャー

2023.10.19 11:00

新・ラグジュアリーの文脈で考える「復刻」の意味

鈴木 奈央
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今回もいつにもましてハードルの高い繊細なお題です。「ファッション史の扱い方」に関するきちんとした議論ができるほど整理はできていないのですが、最近、「CFCL」のクリエイティブディレクター、高橋悠介さんと対談する機会があり、彼の歴史感覚から気づくこともあったので、ここではそれを紹介します。

CFCLはClothing For Contemporary Life(現代生活のための衣服)の頭文字で、3Dコンピューター・ニッティングの技術を中核に据え、時代に左右されない衣服を提供することを謳っています。高橋さんは三宅デザイン事務所に10年間在籍したあとCFCLを創業。まだ3年ほどの若いブランドながら、ブランド立ち上げ後まもなく毎日ファッション大賞新人賞を受賞、性別年齢国籍問わず人気が広がり、パリコレにも出て、世界で知名度を上げています。

このブランドの特徴的なデザインの一つに、ポッタリ―ドレスがあります。陶器のように丸くスカートや袖が広がっているのです。このようなシルエットは日本の歴史に前例がなく、むしろ17世紀から19世紀にかけてのヨーロッパのスカートや、18世紀フランスのロココスタイルの袖に近いです。

パリで発表されたCFCL 2022-23年秋冬コレクション。中央がデザイナーの高橋悠介(Getty Images)

そればかりではありません。CFCLのコレクションに日本の歴史ないし日本的要素を重ね見ることができるものがあるかといえば、探すことがきわめて難しい。実際、高橋さんは「一部のメディアからのフィードバックとして『日本的な文化のイメージがない』という指摘があった」と話しています。

高橋さんは、もちろん、あえてそうした挑戦をしています。「着物からインスピレーションを得たディテールや日本的な染め物、わびさびみたいなわかりやすい部分がいまだに求められている現実」があることに静かに抵抗しているのです。

海外で面白がられる日本のファッションカテゴリーには、西洋の歴史だけを自由奔放に解釈したゴスロリやロリータがあります。中世ゴシックもヴィクトリアンも、メイドも貴族もフラットに扱い、ごた混ぜにして、「カワイイ」を至上の価値として追求した日本オリジナルなスタイルです。

西洋では何百年にもわたり女性を拘束してきたおぞましき遺物と見られているコルセットやパニエといった下着を装着する必要もあるのですが、欧州からの旅行客が原宿で嬉しそうに模倣している倒錯的な状況を見ると、不思議の国に迷い込んだような錯覚を覚えます。申し訳程度に着物的要素を加えた「和ロリ」まであり、ほとんどカオスです。ついでに言えば、ゲーム世界でも、スーパーマリオのような西洋人キャラクターしか出てこないゲームも日本発カルチャーとして人気です。
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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