ぼく自身、企業の設立からの長さではなく、歴史の広い取り入れ方にラグジュアリーのエッセンスがあると話してきました。
例えば、2022年のショパン国際コンクールにおいて、優勝者を含め入賞者3人が弾いたのがイタリアのメーカー、ファツィオリ(Fazioli)のピアノでした。高級ピアノといえば、19世紀半ばに創業したベーゼンドルファー(オーストリア、2008年、ヤマハが買収)、スタインウェイ(ドイツ/米国)、ベフィシュタイン(ドイツ)ですが、彼らと並ぶ実力をみせつけたのです。
ピアノにとって一番重要な部品は、音の質を決める響板です。ファツィオリはバイオリンの名器・ストラディバリウスが使ったと同じ森の木を使っています。本社はヴェネツィアから北に60kmほどいった人口2万人のサチーレにあり、ピアノの発祥の地であるパドヴァからも近い。つまり、ピアノメーカーとして新参者ではあるものの、背景には十分な材料が実質的にそろっている。こうしたことはファツィオリが「歴史の後継者」と目される後押しをします。
また、8月に書いた記事『英老舗リバティが繋ぐアートヒストリーの「前衛」とは』とも共通するものがあります。リバティのマネージングディレクターは「歴史というのは、時代によって違った記述がされる。だからこそ、歴史に学ばないといけない」と語っていたのですが、新・ラグジュアリーにおける歴史の意味と位置づけをもう一度よく考えてみる段階にきたなあと、デザインの復刻版をめぐる旅で思ったのです。
中野さん、服飾史研究家としてファッション史の扱い方を教えていただけたら嬉しいです。