スポーツ

2023.10.17

元K1王者はなぜ経営者向け格闘技大会を開くのか 闘いに宿る「武士道と美」とは

──組み合わせの妙も「EXECUTIVE FIGHT BUSHIDO」の醍醐味と言えますね。

そうですね。私自身は対戦した選手それぞれのストーリーを知っていますから、試合後にリング上でエピソードを明かしたりします。ある選手は練習で怪我をしながらも、どうすれば勝てるのかと悩みながらリングに上がっていたりします。そしてある選手は、一緒に会社を経営していたお父様が試合の1週間ほど前に亡くなられて、一度は試合に出るのを断念されたんですが、「父はきっと挑戦している自分を応援してくれるはずだから」と言って試合に出場され、勝利されました。

そうしたストーリーがリング上で語られると、会場で見ている方々も感動します。お客さんの多くは、出場する選手たちのもとで働く社員や友人、取引先であり、選手たちは彼らから普段は浴びることのない歓声を受けます。

リングに上がれるのは年に数回です。しかしそのために身体を作り上げて試合に臨むことは、確実に選手たちの人生の1ページに刻まれるはずだと信じて、大会を開催しています。

──「EXECUTIVE FIGHT BUSHIDO」という大会名に由来はありますか。

日本の武士道の精神を、リング上で発揮してほしいという思いを込めています。日本にはかつて侍がいて、その精神から学ぶことは多くあるはずです。戦いは相手がいなければ成立しないものであり、相手への敬意や自らを律する心、自分に嘘をつかない誠実さなど、リングにも武士道の精神が宿っています。

また私自身、勝利した選手よりも、負けてリングを降りていく選手の背中を美しく感じます。そこにも、武士道に通じるものがあると考えています。

──現代の行き過ぎた資本主義の中で、単純な勝ち負けではなく、相手へのリスペクトを持つ武士道の精神こそ、参加するエグゼクティブの心の琴線に触れるのかも知れませんね。

格闘家であれば当然、「優勝したい」「チャンピオンになりたい」と望むと思いますが、それらの夢と言われる多くは、実はエゴでしかありません。周囲は「目標に向かっていてすごい」と持ち上げてくれるかもしれませんが、結局はあくまで自分のわがままです。

そしてそのわがままを、自分一人の力だけで叶えることは難しい。練習するにも他人の力が必要ですから、夢に向かうためには周囲への感謝も欠かせないと、格闘技を通して学べるのかも知れません。

──小比類巻さんは、現役時代からそういった考えをお持ちだったのでしょうか。

いいえ。現役時代を振り返ると、最初はカッコつけて、「俺が一番」「強いから勝つのは当たり前」だと考えていましたね。ただ、強さを追求してトップに近づけば近づくほど、そんな傲慢さも通用しなくなっていきました。

やはり泥臭い地道な努力もしなければいけませんし、携わる仲間を大事にしなければ、エネルギーももらえないものです。格闘技は個人競技ですが、ミットを持ってくれるトレーナーがいたり、練習のパートナーや体をケアしてくれるスタッフがいたりと、多くの人たちが一つになる団体競技のような側面もあります。

リングに上がるのは一人かも知れませんが、周囲の人々をどれだけ大事にできるのかも重要です。最初は勢いだけで突っ走っていた私も、トップに近づくほど、謙虚であろうという気持ちを持つようになりましたね。

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文=小谷紘友 写真=小田駿一 インタビュー=Forbes JAPAN Web編集長 谷本有香 編集=大柏真佑実

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