宇宙

2023.10.10 17:00

大型宇宙ごみが危うく正面衝突 懸念される衝突の連鎖「ケスラーシンドローム」

安井克至

上空のハイウェイ

低周回軌道と呼ばれる3次元空間は広大だ。地球の表面積や、航空機の飛行可能領域を桁違いに上回るほど広いものの、それらとは異質な環境であり、また近年、急速に混み合いつつある。

黎明期にある民間宇宙開発をけん引するスペースXのスターリンク衛星群を筆頭に、ここ数十年で、低周回軌道上にある衛星などの物体の数は爆発的に増加した。国連のデータによれば、1957年から2014年までの間に宇宙に打ち上げられた物体の数は7000個強だったが、2014年以降の8年間でさらに7000個が追加された。すなわち、宇宙空間にある物体の過半数は、過去10年以内に打ち上げられたものなのだ。

軌道上の物体は、空気抵抗がないため、秒速約8kmで地球を周回する。膨大な運動エネルギーを持っているため、万一衝突した際には膨大な破壊力がある。

廃棄された物体同士のニアミスが憂慮されるのは、こうした事情からだ。数千個のスターリンクを含む、稼働中の衛星であれば、少なくとも地上から操作して衝突回避を試みることができる。しかし廃衛星の場合、すべては運任せだ。これまで事実上無規制だった低周回軌道において、大規模衝突が起こる可能性は日に日に高まっている。

懸念すべき理由

こうしたリスクは身近に感じられるものではないし、私たちの日常生活にこれといった影響はなさそうに思える。実際、おおむねその通りだ。けれども、最悪の事態に至った場合は、日常生活のほぼすべての側面に支障をきたすことになる。

軌道モニタリングを行なう多くの専門家が恐れるのは、ケスラーシンドロームと呼ばれる架空のシナリオだ。これは、地球周回軌道上のスペースデブリの密度がある限界を超えると、衝突・破壊の連鎖によって宇宙ごみが爆発的に増え、宇宙開発を行えなくなるというものだ。

衝突のドミノ効果により、最終的にはすべての衛星が破壊され、それらの修理・交換もできないほど宇宙空間が危険な場所になってしまう可能性があるわけだ。そうなれば、現代のグローバル社会を支える、衛星間のリレーやルーティングによる即時的なデータの送受信が一瞬にして、半世紀以上も昔の技術水準に逆戻りしかねない。

もちろん、このシナリオは架空のものだ。破滅的な影響を緩和するさまざまな方法が、今まさに検討されている。だが、衝突の連鎖が明日始まったら、あるいは、(考えるのも嫌な可能性だが)ロシアが行なったASATによって、そうした連鎖が2021年にすでに引き金が引かれていたとしたら、どうだろうか。システムが危機を回避するためにどれだけの冗長性が必要なのかも定かではない。

不幸中の幸いは、低周回軌道が「低い」ことだ。つまり、今私たちが宇宙に打ち上げている物体は、最終的には地球の大気圏に再突入し、燃え尽きて自動的に処理される。スペースデブリ問題のエレガントな解決策というわけだ(2007年以降は、高度約2000km以下の低周回軌道衛星の場合、運用終了から25年以内に大気圏への再突入・落下が行なわれるよう考慮して運用が行なわれている)。

それでも、低周回軌道の渋滞がますます悪化しつつあり、誰も交通整理をしていないという現状から、目を背け続けることはできない。

forbes.com 原文

翻訳=的場知之/ガリレオ

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