食&酒

2023.10.07 12:30

夢のように美しいワイン|池野美映×小山薫堂スペシャル対談(前編)

Forbes JAPAN編集部
小山:そもそもご自分でワイナリーをもとうと思ったきっかけは?

池野:もともと編集者をしていて、最初は科学的根拠に基づいた正しいワインの記事を書けたらいいなと思ったんです。それで、フランスに行きました。

小山:造り手になるためではなく?

池野:はい。行ったら書くのはいつでもできると気がついて、まずは造ってみようと。「なぜワインだったのですか?」とよく訊かれるのですが、私が掘り下げてきた「自然」と「人」と「文化」の3つの興味の交点にあったのがワインでした。

小山:それで本場に学びに行っただなんて、素敵ですね。しかも醸造家になられ、日本でこんなに美味しいワインを造ってくださるとは嬉しいかぎりです。フランスと日本の生産者に何か違いは感じますか。

池野:日本の方はやはり作業が丁寧ですね。あと、最も違う点としてはサニテーション(衛生管理)。フランスにいると「えっ!」と思うことも(笑)。

小山:なるほど。ブルゴーニュといえば、「テロワール」という概念が発祥した場所で、評価や価格にも大きく影響しますよね。それこそ道一本隔てて畑が変わると、価格も驚くほど違ったり。そのことについてはどう思われますか?

池野:住んでいたときに、あるドメーヌで同じ年に同じ醸造方法で同じ人が醸したコート・ドールの17本のワインを順序だてて、マルサネーからニュイ・サン・ジョルジュまでテイスティングさせてもらったことがあるんです。

小山:違いました?

池野:ぜんぜん違います。感動しました。いわゆるパーセル(区画整理された土地)やクロ(石垣で囲まれた葡萄畑)という人為的な区画に収まりきらずに、ワインがその範囲を飛び越えてくるというか……。土壌の流れがそのままワインの味の流れにつながっている感覚で、とても新鮮な驚きでした。(次号に続く)

今月の一皿


鎌倉「イチリンハナレ」のスペシャリテ「よだれ鶏」を再現。ナッツや胡麻の効いたタレに餃子と山椒麺も絡めていただく。

blank


都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。


池野美映◎長野県生まれ。醸造家兼レ・パ・デュ・シャ代表取締役社長。編集者などを経て、2001年に単身渡仏。05年、国内7人目となるフランス国家資格ワイン醸造士を取得。11年、山梨県八ヶ岳山麓にワイナリー「ドメーヌ ミエ・イケノ」をオープン。

小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。

写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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