「リスキリングとは、企業が新たな事業戦略に基づき、従業員の職業能力を再開発することであり、『学び直し』は英語でリラーニング(Relearning)。さらに『学び直し』を日本語の辞書で引くと、以前、学んだことをもう一度学ぶこととされているので、二重に間違っています」
そう語るのは、日本におけるリスキリング普及の第一人者と言われる、ジャパン・リスキリング・イニシアチブの代表理事、後藤宗明氏だ。岸田政権が支援に5年で1兆円を投じると表明したことをきっかけに、国内でもリスキリングが広がりつつあるが、その実現につまずく企業は多い。リスキリングに成功する経営者と失敗する経営者、両者には明確な違いが存在するという。今回は、後藤氏に代表的な5つをあげてもらった。
1. 主語は「従業員」ではない
リスキリングは、あくまでも主語が企業・組織で、目的語が従業員。後藤氏は、日本の経営者の多くがそこを誤って理解しているため、企業として本来のリスキリングに取り組めていない状況があると指摘する。「多くの場合、リスキリングを個人の学び直しだと捉えていて、就業時間内に従業員が学ぶことを悪だと考えています。例えば、福利厚生としてオンライン講座を提供し、従業員が業務時間内に受講することを禁止。そのための残業代も支給しない企業が目立ちます。もし業務時間内にリスキリングに取り組んでいる従業員を見つけたら、『何を動画なんか見て遊んでいるんだ! そんな暇があるんだったら働け!』という話になってしまうんです」(後藤氏)
もう一つの「あるある話」が、従業員の「学びっぱなし」だ。学びは業務において、トライアンドエラーで実践するからこそスキルとして身につく。しかし、日本でそうした仕組みを持つ企業は、一般的ではない。結果、ここ数年間で複数の企業に起きたケースとしては、コロナの巣篭もり需要もあり、学ぶ意欲が高い従業員ほど夜間や週末にデジタル分野の講座などをオンラインで受講し、勉強を重ねていった。そして、転職のために会社を去っていったという。
企業が自社の成長戦略をしっかりと定め、実現に必要なスキルを従業員に習得してもらう。それをできていないことが、リスキリングにおける日本企業の一番の課題だと後藤氏は指摘する。
2. 背中を見せているか
経営者が自らリスキリングに関わっているかで、明暗が別れるという。「日本企業には、自ら学ばない経営者が多いんです。それでは失敗すると思います。自ら学んでいる場合、従業員をリスキリングさせようとした時、必要な技術やリソース、手順などが分かるようになります。しかしそれらを把握できていないと、例えばリスキリングのためにシステムやツールを入れようとしても、必要以上の金額を支払うことになったり、導入しただけで満足したりという事態に陥りがちです」(後藤氏)
成功事例がある。電話帳の印刷会社が、デジタルソリューションを提供する先端企業へとピボットしたのだ。名古屋に本社がある創業117年の西川コミュニケーションズは、電話帳のニーズ低下に伴い、2013年からリスキリングを開始。その結果、リストラを行うことなく、デジタルマーケティングやAI、ICTソリューション、3DCGなどの分野に進出し、業態転換を果たした。