YCAM開館20年 山口発・先端メディアアートで「社会共創」をデザインせよ

督 あかり

アート領域にR&Dチームを置く理由



まず、前提となるYCAMについて紹介しよう。山口情報芸術センター[YCAM]は、山口県山口市にある公共文化施設である。2003年の開館以来、メディア・テクノロジーを用いた新しい表現の探求を軸に活動している。館内には作品の展示スペース、劇場、映画館、図書館が併設される複合文化施設だ。

国内外のアーティストやクリエイターと共同し、メディアアート、パフォーミングアーツ作品、映画の制作、メディア教育プログラムの開発、地域リサーチなど幅広い活動を行なっている。近年は、企業や他研究機関との連携も積極的に行ない、バイオ、食、スポーツ、福祉など研究領域は多岐に渡る。
YCAM InterLab 活動の様子 撮影=山岡大地(YCAM)

YCAM InterLab 活動の様子 撮影=山岡大地(YCAM)


YCAMの最大の特徴としてあげられるのは、InterLab(インターラボ)の存在である。YCAM内部に常駐するR&D(Research and development、研究開発)チームで、映像、音響、ネットワーク、照明、電子工作、プログラマー、デザイナー、エデュケーター、パブリシスト、アーキビスト、キュレーター、シネマキュレーターなど、異なるバックグラウンドを持った20名程度で構成されている。

このチームを起点に、多種多様なメディア・テクノロジーの本来的な機能や社会学的/思想的背景のリサーチをはじめ、誤用も含めた未知の可能性、他のテクノロジーとの組み合わせといった新しい応用の可能性を、活発なトライ・アンド・エラーを通じて発見し、蓄積している。

このようなインターラボが行う「メディア・テクノロジーの応用可能性の研究」の知見は、オリジナルの作品制作やワークショップの運営、キュレーションやアーカイブ手法に至るまで、YCAM全体の事業活動に役立てられている。

国内外で巡回数は400 都市ブランディングに寄与



またYCAMで作られた作品はその後、国内外を巡回することを想定している。山口で生まれた作品が世界を旅することで、鑑賞、体験を通じてより多くの人に出会うことができるのである。これまでYCAMで作られた作品は300を越え、巡回数は400に達している。

当然、展覧会のクレジットには「Yamaguchi City」や「YCAM」という文字が記載されることになり、作品制作を通じて都市のブランディングに寄与しているのだ。

今年で開館20年目を迎えるYCAM。通常の文化施設としては成熟期に入るのかもしれないが、YCAMはどうもそんな感じがしない。これまでも、その時々の社会変化やテクノロジーの潮流に呼応し、実験を繰り返しながら変わり続けてきた。今後も形の定まらないメディア(媒体)として有機的に社会に接続していけるよう自らへの戒めも込めて期待したい。

現在、YCAMでは20周年を記念したイベント事業が多数行われている。まだお越しになられたことがない方は、ぜひYCAMに遊びに来ていただければ嬉しい。11月4日には開館20周年記念シンポジウムとして「YCAMオープンラボ2023 もうひとつの学び場」が開かれる。

さまざまな分野で創造性と公共性について考察してきたゲストを招き、トークやディスカッションを通してこれからのYCAMの姿について構想するイベントだ。

登壇者には専門家以外にも10年前にYCAMの展示やワークショップに参加していた近隣の小学生たち(通称:YCAMキッズ)を招き、大人になった彼ら/彼女たちとのディスカッションも予定している。同日にはアイデアや知識をシェアし育む学びの場としての展覧会「あそべる図書館—Speculative Library」も開催中なので教育やコミュニティに関心のある方におすすめだ。おいでませ山口。

文=菅沼聖

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