日本のスーパースターは世界に打ちのめされ、世界を目指した
話の主題を平野に戻そう。
平野はアイスホッケー人気絶頂の時代だった1995年8月18日に北海道、苫小牧市で産声をあげる。父は古河電工の元プロ、兄も選手という、まさにスポーツエリート一家で育った。
高校から地元を離れ、北海道・帯広の白樺学園高校に入学。インターハイ2連覇し、高校1年からU18の日本代表に選ばれるなど、着実にプロへの道を歩んでいた。
しかし、屈辱がエリートプレーヤーを突如、襲う。U18の世界選手権において、日本は5連敗を喫し、降格の憂き目にあったのだ(アイスホッケーの国際大会は国のレベルごとにリーグが分けられ、開催される)。
「日本代表としてのスタートがこの有様。とにかく、悔しかったですよ。でも、このタイミングで、自分の力が通用しない、圧倒的な世界があるんだということを知ったわけです。必ず海外に行く、海外で通用するプレイヤーになるのだと、そこで僕の心は決まりました」
高校卒業後、アジアリーグの東北フリーブレイズに加入し、海外挑戦制度を利用して1年目からスウェーデンのジュニアリーグに所属。翌年からはNHLのシカゴ・ブラックホークス、2016年にはサンノゼ・シャークスのルーキーキャンプにそれぞれ参加。
2018年からは、活躍の場を本格的に海外に移す。北米3部リーグに所属し67試合出場、19ゴール38アシストを記録。
2019年、2部リーグであるAHLに昇格。コロナの影響で一時帰国を余儀なくされたが、2022年から再びAHLに戻り、日本生まれの選手として初めてAHLでゴールを奪った。
同じミスをした選手が翌日に姿を消す、過酷な環境
一般的に日本のプロスポーツ界は1年単位での契約が保証されている。プロ野球に至っては、活躍を続けチームに長期的に在籍して欲しいと判断されれば、5年契約年俸総額25〜40億円といった凄まじい条件を提示される。NBA、MLB、海外サッカーもそれに当たる。
しかし、平野が身を置く世界の常識は逆だ。ミスをすれば、明日の契約は保証されていない。
「同じミスを2回繰り返し、翌日にクビになった選手を何人も見てきました。日本でプレーしていれば、そんなことですぐにチームから追放されるなんてことはない。側から見れば、『過酷だ』『酷すぎる』と思われるかもしれません。ただ、僕は逆に捉えていて。自ずと本気になれる、全身全霊をプレーに注げる、そう思うんですよ」
ワンプレーで自分の人生が決まる、そんな重みを持ちながら平野は日々、プレーしているというわけだ。普通のメンタリティであれば、耐えられないだろう。おそらく、普通の人であれば「失敗したらどうしよう」、そんな気持ちに襲われる。振り返れば常に“死神”が鎌を振りかざして立っている......そんな恐怖と、どういうマインドで向き合っているのか。単調直入に質問してみた。