また全米でもLGBTQに寛容な都市としても知られ、市街地にはどことなく自由な空気が満ちている。そのオープンエアな雰囲気のためか、映画の舞台となることも多く、ウィキペディアで「シアトルを舞台とした映画」と引くと、67もの作品が列挙されている。
筆者としても、トム・ハンクスとメグ・ライアンが共演した「めぐり逢えたら」(1993年)、ヒョンビンとタン・ウェイ主演の「レイトオータム」(2010年)、ダコタ・ジョンソンの「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」(2015年)などに登場したシアトルの印象的な風景が記憶に残っている。
リチャード・リンクレイター監督の「バーナデット ママは行方不明」もまた、シアトルを舞台とした作品だ。劇中には、主人公の家族がこの街のシンボルタワーである「スペースニードル」の360度回転する展望レストランと思しき店で食事をする場面も登場する。
ニューヨークやロサンゼルスならもちろんなのだが、全米でも15番目の規模にあたる西海岸北端の都市が、このように映画の舞台として持て囃される理由は、あらためて検討する余地はあると思う。
ただ、「バーナデット ママは行方不明」は前述の3作品のような恋愛映画ではなく、リンクレイター監督が得意とする家族をめぐるコメディとなっている。
バーナデットはIT企業に勤務する夫のエルジーと娘のビーとともに一家3人で暮らしている(c)2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved
原作は全米でのベストセラー小説
シアトルの一軒家に暮らすバーナデット・フォックス(ケイト・ブランシェット)は、かつては最年少で栄誉ある賞を受賞して将来を嘱望された天才建築家であったが、いまは夫のエルジー(ビリー・クラダップ)や娘のビー(エマ・ネルソン)とともに専業主婦としての日々を送っていた。彼女は20年前、突如として理由も告げずに引退し、ロサンゼルスからシアトルに移り住み、古い建物を改築してひっそりと暮らしていた。世間では、彼女にいったい何があったのかと、その振る舞いが「建築界の謎」として語られていた。
両親にとっても娘ビーの存在はかけがえのないものだ(c)2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved
家族とともに静かな日々を送っているかに見えたバーナデットだったが、実は極度の人間嫌いで、近隣の住人や娘のママ友たちともうまく付き合うことができなかった。また外出も苦手で、買い物や日常の家事などは、メールで依頼できるバーチャル秘書に依頼していた(このことが後に問題を引き起こす)。
そんな折、娘のビーがトップの成績で中学校を卒業、そのお祝いとしてかねてから約束していた南極への家族旅行に出かけることになる。実は、他人と接する機会の多い「旅」は、バーナデットにとっては苦痛以外の何ものでもなかった。
ともあれ、愛する娘のために旅行への準備を進めるバーナデットだったが、夫のエルジーのところにFBIの捜査官が訪れ、彼女が国際的な陰謀に巻き込まれていると告げるのだった。
自らハンドルを握り、最愛の娘ビーを学校へと送迎するバーナデットだったが(c)2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved