「成長」を牽引する街と課題
2022年、イスラエルの人口は950万人を超えた。建国時の1948年に約70万人だったところから13倍以上。2050年には1500万人を超えるという人口予想も発表されており「先進国で唯一、人口が劇的に増える見通し」とも言われる。移民の受け入れに加えて、出生率の高さもその要因だ。少子化が叫ばれ続ける日本の出生率1.3対して、イスラエルは2.9。旧約聖書の「産めよ、増えよ」という教えもあるが、不妊治療や出産などにかかる費用、高校までの義務教育が無償と支援も充実している。
人口同様、豊かさの目安となる1人あたりの名目国内総生産(GDP)も伸びている。2010年代後半から日本を上回り、2021年には日本が3万9803ドルなのに対して、5万2278ドルとなた。その過程において都市部は人口過密になり、特に、ハイテク関連で成長を牽引するテルアビブは家賃が高騰。2021年にはエコノミスト誌の「生活費が高い街」ランキングで世界一となった。
そのため、都心に限らずベッドタウンにあたるエリアまでマンションの建設ラッシュで、テルアビブを歩いていても、周辺を車で走っていても建設現場に出くわす。東京やニューヨークでも再開発は見かけるが、ゼロから作られる様子には、ベトナムのホーチミンなど新興国の都市に近いものを感じた。
テクノロジー先進国ながら、近郊をつなぐ鉄道は、意外にもコロナ禍中にようやくディーゼルから電車になったばかりなのだという。都市中央部では、国にとって初となる地下鉄が年内に開通予定。キックボードや自転車も浸透しているが、必然的に車移動が多く、通勤時間帯には渋滞がつきものとなっている。
イメージ百聞は一見にしかず
そんな成長のエネルギーが渦巻き、政治的な緊張もありながら、どこかのんびりとした印象を抱くのは、約15kmに渡り、街に沿うように整備されているビーチのおかげだろうか。ガルさん曰く、「ユダヤ人は、よく食べ、よく動く」そうで、海で泳いでから出勤したり、昼休みに走ったりするライフスタイルが根付いているのだという。夕日が美しい時間になると、子どもと遊んだり、仲間とお酒を飲んだりする姿も多く見られた。仕事のストレス解消の意味でも、子育ての意味でも、この自然との近接感が豊かさを生み出しているように感じた。
コロナ禍前の2019年、日本からイスラエルへの渡航者は約9000人だったという。同じ中東のドバイを訪れた人は11万人以上。単純に比較はできないが、イスラエルの知名度に対して渡航者が多くない背景には、「危ない」というイメージがある。
確かにパレスチナとの衝突はあり、街に兵士がいたり、セキュリティチェックがあったりするが、それゆえ安全が保たれているというのがイスラエルのスタンスだ。個人的には、この国や地域のイメージが先行しすぎていないかと省みる経験にもなった。
宗教、移民、安全、成長、都市、自然、ワークライフバランス……漠然としていて、あるいは忙しくて向き合いそびれているものに、目を向けさせてくれる街。旅自体がその性質を持っているというのもあるが、自分はどうか? 日本はどうか? と、テルアビブは働く私たちにさまざまな気づきを与えてくれるように思う。