街の標識などは公用語のヘブライ語が優先されているが、買い物や食事ではおよそ英語が通じる。物価は日本と同程度。治安は、ガイドのガル・ゴールドスタインさん曰く、「女性が夜にひとりでも出歩ける」レベル。移住者も観光客も多い中、日本人は珍しくなく、余計な視線も感じない。
文化の違いを感じるのは、土曜日(正確には、金曜の日没から土曜の日没)がシャバットと呼ばれるユダヤ教の安息日で、店が休業するのみならず、公共交通機関すらも止まること。「落とし物をすると返ってくるのが日本だとすると、イスラエルでは、落とし物は不審物と見做され、警察に処分される」(ガルさん)と、セキュリティに敏感なところもイスラエルらしい。
移民の国、人々をつなぐ食
日本といえば日本人だが、イスラエルはユダヤ人の国家であり、イスラエル人よりユダヤ人という表現が紐づく。ユダヤ人とはユダヤ教徒のことで、国民の約75%を占めるが、人種はヨーロッパ系、アラブ系、アフリカ系などさまざま。そこに、イスラム教徒 18%、キリスト教徒 2%、ドルーズ 1.6%が共存する。テルアビブは、ヤッファ地区に聖ペテロ教会やオスマン帝国時代のモスクがあり、コーランも流れる。ユダヤ人も厳格に戒律を守る正統派から、ほどんと守らない世俗派まで幅広い。一方、国内には、敬虔なユダヤ教徒のみが住む「ツファット」、アラブ人が根付く「アッコー」などがあり、地域や街区によってコミュニティの性質は異なるという。
そんなルーツや宗教の違いは、独特の食文化を生み出している。テルアビブ台所「カラメルマーケット」には、新鮮な食材のほか、地元のアラブ料理や地中海料理、チュニジア、モロッコなど移民のルーツを反映したフード屋台が並び、それらを楽しむ人々の活気であふれている。
この多国籍さこそが特徴の“イスラエル料理”において、どのレストランでもメニューにあるのが「フムス」だ。ひよこ豆をすりつぶしたペーストで、オリーブオイルやスパイス、ゴマのソース「タヒニ」などと一緒に食べる。ユダヤ教のコーシャ、イスラム教のハラル、いずれの食事規則にも触れない国民食で「毎日のように食べるけれど、作るのが大変で、皆、馴染みの店で買う」のだとガルさんは言う。
カラメルマーケットを知り尽くすプロが「テルアビブでナンバーワン」とすすめるフムスは、イエメンからの移民家族が手がける「Shlomo and Doron」。野菜やミンチ、スパイスがトッピングされ、メインディッシュかのようなフムスは見た目も美しく、食べ応え満点。4代目の店主が「ピタパンでなく、生の玉ねぎでスクープして」と粋な食べ方を教えてくれた。