サイエンス

2023.09.15 12:00

モロッコ大地震、直前に謎の発光現象

遠藤宗生

モロッコの地震で壊滅的な被害を受けた山間部の村(Carl Court/Getty Images)

モロッコ東部の高アトラス山脈でマグニチュード(M)6.8の大地震が発生する直前、夜空を照らす閃光を撮影したとする動画がソーシャルメディアで共有されている。米ニュースサイトのビジネスインサイダーと米紙ニューヨーク・タイムズは、この「説明のつかない発光現象」について、「地震光」の可能性があると伝えた。

地震光とは、大きな地震の前や最中、地震後に観測されるといわれる発光現象だ。短時間の閃光のほか、光る雲、光球、地面から立ち上る炎などの目撃談がある。

この現象は長い間、裏付けにとぼしい体験談や伝承があるのみで、ほとんどの地震学者は真剣に受け止めていなかった。だが1973年、地質学者の安井豊が、長野・松代町で起きた群発地震の際に上空で赤や青に光る雲を撮影したとする証拠写真とともに、地震に伴う発光現象に関する英語の調査報告書を発表した。

今では、大地震の後にはほぼ必ず、奇妙な光や発光する雲を見たという話が飛び交うものの、多くの場合、地震発光とされる現象は確認できない。


2017年と2021年にメキシコの首都メキシコ市を過去数十年で最大規模の地震が襲った際も、発光現象を撮影した画像や動画が地震光だとしてインターネット上に出回った。その後の分析で、電線などで生じた火花が上空の雲に反射した光だったことが示唆されている。2023年のトルコ・シリア地震で報告された地震光とされる現象は、雷雨に伴う稲妻や、放電、爆発による火災が組み合わさったものだった。

今回のモロッコで撮影された光についても、ネット上で確認できる動画を見る限りでは、電線間で発生したアーク放電や、街中にある変圧器などのインフラ設備の爆発が原因の可能性が高いように思える。


地震発光現象の物理的な証拠は今のところないが、地質学的に全く説明がつかないというわけでもない。地球の大気中では電磁効果によって発光現象のオーロラが発生することがある。一時的に電磁場が生じたとすれば、地震発生時に電子機器(特に電話)が誤作動した、無線信号が妨害されたなどの報告にも説明がつく。この説によれば、地殻変動が活発な地域では、力が加わった岩石に電荷が蓄積される。この電荷の一部が地震発生時に放出されて火花を生じ、これが短時間の閃光として目撃されるのだという。また、蓄積された電荷は地下の酸素原子をイオン化する。断層を伝って地表へと上昇した酵素イオンは光る雲を生じる。ただし、この効果は実験室条件下でしか観測されていない点に留意が必要だ。

モロッコの壊滅的な地震では、これまでに2500人以上の死亡が確認された。震源はマラケシュの南西約71kmにある高アトラス山脈の山中で、震源の深さは8~26kmと浅い。

この地域は、プレートの沈み込みによって地震活動が活発なプレート境界付近に比べ、普段はあまり地震が発生しない。

モロッコで起こる地震は、2億5000万年以上前に超大陸パンゲアの分裂によって形成された断層の再活動化と関連している。パンゲアが分裂して大西洋が拡大する間、古生代の岩石には平行して走る正断層に縁取られた地溝帯が形成され、そこは中生代に石灰岩の堆積物によって埋まった。約6500万年前、アフリカプレートとユーラシアプレートの衝突によって地溝帯に圧縮力がかかり、古い正断層が逆断層として再活動を始めた。逆断層に沿った地殻変動は現在も続いており、アトラス山脈は1年間に約1mmのペースで隆起している。

forbes.com 原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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