購買力が低下しているせいで、なけなしの貯金を使い果たしてしまう。それに加えて、人工知能(AI)が急速に台頭・普及し、いずれはテクノロジーに職を奪われてしまうのではないかという恐怖は高まる一方だ。
本当にそれほどひどい状況なのか
TikTok世代が「サイレント・ディプレッション」だと感じるのはもっともなことだ。例えば、家族を持ったり住宅を購入したりできないため、アメリカンドリームを実現することができない。とはいえ、現状を世界大恐慌になぞらえるのは、やりすぎだ。思い出されるのは、第33代大統領ハリー・トルーマンがかつて口にした名言だ。「隣人が失業すればリセッション(景気後退)、自分が失業すればディプレッションだ」世界大恐慌は、容赦ないものだった。経済危機は長期化して、株式市場が暴落、多数が職や住む家を失い、銀行の倒産が相次いだ。失業率が驚くほど上昇し、デフレの悪循環も起きた。それに引き換え、米国の現在の失業率は3.8%だ。株式市場は最高水準にある。
米国はこれまでのところ、景気後退を回避できている。悲惨指数(失業率と消費者物価指数の上昇率を足した数で、経済的な悲惨度を示す)は、世界大恐慌の頃はもちろん、インフレ率が高かった1970年代と比べても、はるかに低い。
しかし、こうした統計などを耳にしてもまだなお、現代人は、中間層から転落するのではないか、生計の手段を失うのではないかとびくびくしている。恐ろしい事態が現実のものとなるという恐怖が、頭から離れない。
「忘れられた中間層」の苦闘(負担感は重く、受益感は薄い状態)や「K字回復」(全体としては回復局面でありながらも、急回復するものと、回復ペースが緩慢な・あるいは落ち込みが拡大するものと二極化する状況)という現象に注意を向けさせようとする人たちもいる。国内総生産(GDP)などの数値だけでは、格差拡大を完全に把握することはできないと懸念しているのだ。
成長しているという報道にもかかわらず、多くの労働者とりわけZ世代は、これまでの世代と比べると未来を悲観視している。
(forbes.com 原文)