「日常的な暮らしと文化の体験」で持続可能な観光に
一方で、単に観光客数を抑制するだけで、持続可能な観光産業が手に入るのか疑問である。まずは観光客に来てもらわなくては成り立たない産業だからだ。では、どうやって地域住民の暮らしや環境を守りながら観光産業を維持していけばよいのか。そのヒントとなる記事を、英BBCが今年8月23日に配信している。「アムステルダム 悪質な観光客と戦う欧州の首都」と題した記事では、「観光客と地元住民の双方に利益をもたらす、クリエイティブで持続可能なアクティビティー」を紹介している。
ブラウンカフェ、サイクリングツアー、混雑していない美術館・ギャラリーめぐり、公園・ピクニック・ゲゼリグ。
ブラウンカフェとは、アムステルダムに古くからあるスタイルのパブのこと。木の温もりが感じられる内装で、食事やお酒を気軽に楽しめる。筆者は滞在中に何度も利用したが、古い時代にタイムスリップしたかのような錯覚を覚える、素晴らしい空間だった。
アムステルダムは自転車レーンが整備されており、市民らは通勤の足としてごく普通に自転車に乗る。サイクリングツアーは、オランダの暮らしを体験できるものともいえよう。筆者も自転車で移動したが、コンパクトなアムステルダムを効率よく見て回ることができた。
オランダには400を超えるミュージアムが存在しており、その多くは待ち時間なしでも入れる。ニッチな美術館をまわるのは楽しいものである。
ゲゼリグとは、「心地よい時間」を意味するオランダ語で、公園やカフェで家族友人らと語り合ったりゆっくり過ごしたりする概念である。11月に入るとアムステルダムは寒さが厳しくなる。筆者は暖房のきいたブラウンカフェでオランダの友人らと語り合い、まさに「ゲゼリク」を体験したわけだが、厳しい環境だと人の温かさをより感じられる。
これらは基本的に、オランダの日常的な暮らしと文化を体験するものといえる。そして、街の秩序を乱すものでなく、持続可能な観光につながるものでもある。「日常的な暮らしと文化の体験」は、日本でもオーバーツーリズム解消のヒントになるであろう。