メンバー1割が産休で離脱 スタートアップが危機的状況で成長した理由

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2022年4月時点で男性の育休取得率は46.2%、取得日数は46.5日。育児・介護休業法改正をきっかけに男性の育児参加を推進する環境の整備が進んできた。男女を問わず、仕事と育児を両立できるような産前産後の支援は今後も政府や企業によって推進されるだろう。
 
本記事の筆者である夏目萌は、予防医療テックスタートアップのリンケージ取締役COO/CSOで、2カ月の産休を経て職場に復帰した。その様子は前回の記事で共有しているが、今回は、自身も含めて同時に複数のメンバーが産休・育休に入ったことで社内に起こったポジティブな変化についてお伝えしたい。 

組織の1割以上が出産で不在に

リンケージはFEMCLE(フェムクル)という女性活躍を健康面から支援するサービスを提供していることもあって、私自身いつからか、育児と仕事の両立は乗り越えていくべきテーマだと感じていました。

一方で、経営者の不在というのは会社にとってリスクのある状態です。
 
経営者は会社の成長が最優先であり、私が不在でも会社の成長を止めないような体制づくりや仲間集めに奔走しました。
 
ただ、想定外の事態がおきました。自身の産休に向けての準備を行っている最中、社員2人と業務委託のメンバーからも妊娠の報告があったのです。私以外のメンバーは、FEMCLEの事業責任者、営業担当者、デザイナーと、いずれもFEMCLEに関わるメンバーでした。

当社の提供するFEMCLEには、不妊の予防にもつながる婦人科系疾患を解決に導く機能があります。妊娠したのはまさにFEMCLEチームのメンバーで、自社のサービスを通じて知識を高め、子どもを授かることができたと聞いた時はとても嬉しい瞬間でした。

一方で、当時の社員数は約45名。そこから役員・マネージャーを含む4人が職場を離れることは、人が競争力の源泉とも言えるスタートアップにおいて危機的な状況でした。やはり組織づくりの難しさは痛感せざるを得ず、急いで4人分の引き継ぎをするための体制を構築しましたが、不安は拭えませんでした。体制の構築については過去の記事で紹介していますので、よければそちらもお読みください。

経営が育休取得を推奨するメリット

ただ実際のところ、私やメンバーの出産による不在は経営にとってよい影響をもたらしたと感じています。その理由は2つあります。
 
1つめは、メンバーが一つ上の視座で仕事をするようになったことです。復帰後にメンバーと話すと、責任感や目線が高まったように感じることが多くありました。実際に一部からは、これまでは「夏目が最終判断するから」とどこか他人任せになっていたところを、自身で意思決定する必要に迫られ、仕事への自分事化の意識が高まったといった話を聞く機会もありました。

たしかに私自身も経営に関わるようになってから、経営者の視座で物事を捉え判断できるようになった側面があるので、「ポジションが人を育てる」といった定説は正しいのかもしれません。
 
私個人が抱えていたプロジェクトや業務は、多くのメンバーに分散して引き継ぐ形になりました。通常は他の役員やマネージャーに引き継ぐのが自然ですが、今回マネージャーも1人出産で不在となったことから、特定の1人〜2人に引き継ぐという形はとりませんでした。

これにより各メンバーは新しい仕事に触れる機会が生まれたり、これまでより自身で意思決定をする回数が増えたり、またメンバー同士でよりコミュニケーションを取るようになっていました。
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文=夏目萌 編集=露原直人

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