サイエンス

2023.09.10 12:30

地震計でウクライナ戦況をリアルタイム追跡 科学者チームが成功

2023年4月24日、ウクライナ東部ドネツク州の前線で砲撃を行うウクライナ軍の兵士(Muhammed Enes Yildirim/Anadolu Agency via Getty Images)

地震計は通常、局地地震や遠隔地の地震を科学的に調査するために使われるが、交戦中の戦場の監視にも活用できることが、このほど発表された研究結果で明らかになった。

あらゆる自然地震にははっきりと異なる地震波形のパターンがあり、地震計に記録される。地震は岩盤がずれることによって起き、複雑な上下運動のパターンを持つ横波(ねじれ波)を発生させる。一方、爆発は、全方位に一定の圧力ピークで広がる圧縮波を球状に発生させる。爆発から生じる地震波や音波は、地上では秒速約8km、空中では秒速約0.34kmの速度で数百km先まで伝播する。

ウクライナとノルウェーの科学者チームは史上初めて、音波と地震波を用いてウクライナ北部で起きた個々の攻撃をほぼリアルタイムで自動的に識別し、交戦の続く紛争地域をこれまでにない方法で観測した。

首都キーウの北西約100kmには、ウクライナ国立データセンターが運営する地震計アレイ観測点がある。24個の地震計を並べたこの観測所は、包括的核実験禁止条約(CTBT)に基づき核実験の実施を国際的に監視する「国際監視制度(IMS)」の監視施設の1つだ。この設備は、通常火薬による爆発も記録できる。こうした爆発では、人間には感知できないマグニチュード(M)1~2の地震信号が発生する。

研究チームは、地震計アレイ観測データを自動分析装置で解析し、衛星画像をしのぐ精度で広範囲を監視することに成功した。

研究では、2022年2月~11月にキーウ州、ジトーミル州、チェルニヒウ州で起きた爆発1200回以上を観測し、正確な発生時刻、場所、規模(マグニチュード)を記録。信号の強さから爆発の威力を計算し、地震計間の時間遅延から爆発の方向と位置を推定した。さらに、榴弾砲の爆発やロケット砲の着弾など、各種軍事攻撃に関連したさまざまな地震音響信号を特定することもできた。

研究チームによると、この新技術は戦争報道の改善や国際法違反の検証に役立つ。今回の研究では、他の機関によって報道・報告された数よりもはるかに多くの爆発や攻撃が検出された。

他の紛争地域の監視にも、同じ技術が活用できる。世界中に200カ所を超える地震観測所と超低周波音観測所があり、地球のほぼ全域をカバーするデータが得られる。

研究論文「Identifying attacks in the Russia–Ukraine conflict using seismic array data(地震計アレイ観測データを用いたロシア・ウクライナ紛争における攻撃の特定)」は、英科学誌ネイチャーに掲載された。

forbes.com 原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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