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2015.07.09 15:30

佐々木俊尚氏が語る「死ぬまで働く時代」の生き方、暮らし方

現在、東京の渋谷と軽井沢、福井県越前町の3拠点で暮らす佐々木俊尚さん

現在、東京の渋谷と軽井沢、福井県越前町の3拠点で暮らす佐々木俊尚さん

ウェブにつながっていれば、どこでも仕事はできる――

佐々木俊尚さんが著書『仕事するのにオフィスはいらない』で“ノマドワーキング”という概念を取り上げたのは今から6年前の2009年のことだった。その以前から、ジャーナリストとして、テクノロジーの発達が我々の暮らしにどのような変化をもたらすのかを問い続けてきた。

近著「21世紀の自由論」ではグローバル経済の発達や終身雇用制度の崩壊といった視点から、“ネットワーク化された社会”の未来を論じた佐々木俊尚さんに、新たなワークスタイルと日本社会の変容をテーマに話を伺った。

正社員かどうかは重要じゃなくなる

新しい働き方について考える場合、その前提として出てくるのが、企業の在り方が今、物凄く変わりつつあるという話。
例えばアップルには約10万人の社員が居ますが、彼らはプロダクトの生産は外部に委託して、会社の中にはデザインやテクノロジー部門、経営戦略だけがある。企業のコアな部分以外は外注していくという流れは、これからさらに加速するでしょう。

その一方で、「正社員を減らす」という動きも出てきた。それを象徴するのがユニクロの「限定正社員」制度。普通の正社員は転勤があり、その度に仕事の内容も変わりますが、限定正社員の場合は「福井県で店長の仕事」と契約で決まれば、福井から出なくていいし、別の仕事に異動させられる心配もない。かつての終身雇用制度は崩壊して、これからはますます雇用の流動性が高まっていくでしょう。社員か業務委託なのかといった線引きもますます曖昧になっていく。

「オフィスに居なくてもいい」働き方

たとえ正社員であっても、ネットワーク化が進んだ社会では、働き方がどんどん多様化していく。僕の知り合いに東京のソニックガーデンという会社でプログラマとして働く伊藤淳一さんという方がいるんですが、彼の場合は兵庫の西脇市に奥さんと子供ふたりと一緒に住んでいて、東京にやってくるのは数ヶ月に一度程度。


周囲にはのどかな風景が広がる。画面左の白い家が伊藤さんの自宅。

伊藤さんは2012年に入社して以来、ずっと「リモート勤務」という形態で働き続けています。東京のオフィスとはPCやタブレットでリアルタイムでつながり、勤務時間中は社内の雑談の様子まで共有している。何か用があればネットワーク越しに声がかかり、会議の場では彼の姿が映るタブレットが席に置かれ、同じオフィスで働いているのと変わらない環境を構築しています。


自宅で働く伊藤淳一さん

伊藤さんの場合は、環境が良い田舎に住みつつ、好きなプログラミングの仕事に打ち込める方法を模索した結果として、今の働き方を見つけた。営業や広報といった仕事の場合、テレワークでこなすのは難しいかもしれませんが、今後ますますこの流れは加速していくと思われます。

「タイニーハウス」というムーブメント

今はかつてのような経済成長が期待できない時代。収入を増やすのが難しい状況下で、地方に移住して生活コストを抑え、快適な住環境と仕事を両立したいという欲求も高まっています。

環境問題を取り上げるウェブメディア「greenz.jp」の編集長の鈴木菜央さんの場合は、東京の世田谷の家を引き払い、今は千葉県の外房のトレーラーハウスで暮らしています。
中古のトレーラーハウスの購入にかかった費用は約500万円。土地や上下水道の整備にかかった費用も300万円ほどだったといいます。広さ約35平方メートルの家の中には8畳ほどのリビングと、寝室やロフトもあって、手作りのウッドデッキを作ったり、太陽光発電を試したりしながら娘さんたちとのびのびとした暮らしを送っている。




こうしたライフスタイルは2009年のリーマン・ショック以降のアメリカで始まった、「タイニーハウス」と呼ばれるムーブメントの一貫。都会でモノを大量に消費する暮らしより、自然の中で小さな家で暮らすほうが幸せなんじゃないかという考え方が出てきた。

この流れはここ1、2年で日本にも到達し「スモールハウス」と呼ばれて広まりつつあります。YADOKARIという企業がクラウドファンディングで資金を調達し、“世界中を旅する”ことをテーマにしたスモールハウス「INSPIRATION」を250万円で発売したりしています。ネットで都会とのつながりを保ちつつ、生活コストを抑えながら自由なライフスタイルを過ごす人々は、これからますます増えていくでしょうね。


250万円で発売されるスモールハウス「INSPIRATION」

「ハイスペックなパートタイム主婦」の出現

かつては「会社に身も心も捧げる」ような働き方が推奨された日本企業ですが、それもここ数年でずいぶん変わってきた。最近は優秀な人材であれば在宅勤務やパートタイムでもいいから雇用したいという企業が増えてきた。

個人的に今、注目しているのが「しゅふJOBサーチ」というサイト。ここには特にウェブ業界でキャリアのある女性たちが集まっている。子育て中なので家に居ないといけないんだけれど、外の世界とつながっていたい。スキルを維持しておきたいという女性たちが多い。フェイスブックページの運営を任せるとすごく完璧にこなしてくれる主婦がいたり、「高規格なパートタイマー」たちが集まっているんです。

ここ数年でクラウドソーシングの仕組みも普及しましたが、今後は単純な作業だけでなく、特定のジャンルで高い能力を持つ人材がテレワークの形で労働に参加するようになると思います。現状では「高齢者はパソコンを使いこなせない」というイメージもありますが、今の団塊ジュニアが高齢者になる頃には、普通にみんなウェブを使いこなせる時代が到来する。ひょっとしたらスキルの高い高齢者に仕事を取られて、若い人たちに仕事が回らないという時代もやってくるかもしれない。

今から20年後のことを想像すると、国民年金は月に3万円ぐらいしか貰えない時代がやってくる。60歳で退職して年金で暮らすというような生き方は、もはや過去のものになる。みんな死ぬまで働くのが当たり前になる中で、ネットワークにつながって仕事をするのは当然のことになるでしょう。

「多拠点居住」という生き方


私の場合は今、東京の渋谷と軽井沢、そして福井県越前町の3拠点をベースに生活しています。2011年の東日本大震災の発生以降、東京中心に暮らすことのリスクを感じ、軽井沢の貸し別荘を借りて2拠点での暮らしを始めた。その後、妻でイラストレーターの松尾たいこが福井県に陶画の工房を開設し、今年から越前町の古民家が新たな拠点になりました。




私のような仕事の場合、マックが1台あれば仕事はどこでも出来る。人に会ったり、トークイベントをやったりする仕事は東京でしか出来ませんが、月の3分の1は軽井沢や越前町に居ます。

メディアに携わる人間として感じるのは、東京の発信力が以前よりかなり衰えていること。イオンやしまむらといった地方のロードサイドのカルチャーと、東京の文化の乖離が大きくなっている。マスにリーチする情報を発信するには地方の目線が大事だということも感じています。

日本は海外と比べ、移動にかかるコストが高いのが多拠点居住の障壁でもありますが、LCCなどの格安航空会社の普及でそこにも変化が訪れています。最近だと若手のスタートアップ企業の経営者の間では、「週末はシンガポール」みたいなライフスタイルも当たり前になってきた。彼らは若いから高い料金を払ってビジネスクラスに乗ったりしない。ネットの発達で場所を問わず仕事が出来て、暮らし方も多様化する。この流れは今後ますます加速していくと思われます。

取材・文=上田裕資 写真=伊藤勇

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