宇宙

2023.09.09 13:30

総予算1.5兆円超!? マスクが大金を集め「超大型ロケット」開発を進める理由

難易度の高いテストが山積み

スターシップと同型のタンカーがドッキングしたイメージ図(SpaceX)スターシップと同型のタンカーがドッキングしたイメージ図(SpaceX)

今回打ち上げられる2回目のテストが成功すれば、スターシップは高度の低い準軌道をたどって地球を1周する。そして、3回目のテストでは、より高度の高い地球周回軌道(低軌道)へ投入してシステムを実証することになる。

スターシップが見事飛んだとしても、難易度の高いテストはさらに続く。その1つが軌道上での燃料補給だ。

スターシップの定員数やペイロードがかつてなく大きいのは、軌道上で他機から給油を受けることを想定しているからだ。つまり、打ち上げのときに搭載される燃料は、重いスターシップを地球周回軌道へ打ち上げるためだけに使用され、軌道投入が完了した時点で空になる。燃料がなければ月に向かい、月面へ着陸するための噴射ができない。そのためタンカーと呼ばれる同型機から、地球を周回する軌道上で燃料を給油するのだ。

ただし、超低温まで冷却された液化メタン(燃料)や液体酸素(酸化剤)を宇宙空間で大量に給油するのは史上初の試みである。これらの推進剤が気化して機内に漏洩すればタンクが破裂、または爆発する可能性があり、機外に噴出すれば軌道が偏向する危険性がある。この工程を安全に行うための技術実証が必要だ。

そして最後に、無人のスターシップを月面に着陸させるテストも必要だ。このテストは2024年に予定されているが、昨今の月面着陸の失敗例を思えば、その難易度の高さは想像がつくだろう。

このように、クルー2名を月面に着陸させる2025年12月以前に、スペースXが遂行しなければならない課題は山積している。これらの課題をすべてクリアしたうえで、1号機と2号機の本番機を製造して飛ばすには、さらに莫大な資金が必要だ。マスク氏が当初、最大100億ドルと見込んだ開発費は今年度中に半分が消費されるが、あと50億ドルで前述した宿題を終わらせることは難しいに違いない。

現在、各国各社が宇宙にロケットを打ち上げているが、その全ペイロードの質量の約90%をスペースXが担っている。スターシップが完成したあかつきには、それを99%まで引き上げると、マスク氏は意気込んでいる。

彼自身「こうした考えは狂気じみているが、人類を多惑星生物にするには必要な工程だ」とツイートしている。マスク氏の目標は月ではない。彼が人類の火星入植を本気で考えていることは広く知られている。

編集=安井克至

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