この契約は、プロジェクトに中間目標地点(マイルストーン)を設け、それを完遂するたびに契約料の一部が段階的に支払われるというものであり、固定価格契約なので開発中にテスト機が爆発してもその額は変わらない。
かつてNASAがコングロマリットに託した開発費は、予算が超過してもそのまま支払われていた。これでは請負企業に予算圧縮の意思は働かず、莫大な税金が垂れ流されてしまう。昨今NASAが採用している契約方式は、これを是正するための策といえる。
さらに2022年11月、NASAは2028年に実施予定のアルテミス4計画の月面着陸機として、スターシップ2号機を追加選定した。この際の契約金は11億5000万ドル(約1507億円、1ドル131円換算、2022年平均レート)。つまりスペースXは、スターシップ1号機と2号機の開発運用費として、NASAから総額40億4000万ドル(約4686億円、前述金額を合算)を受け取ったことになる。
スターシップを支えるビリオネアたち
しかし、スターシップの開発費がすべてNASAからの提供資金で賄えるわけではない。スペースXの財務責任者ブレット・ジョンセン氏は、同社がスターシップとその私設射場「スターベース」(テキサス州)の開発に、2014年からの9年間で30億ドルを投資したことを明らかにした。またマスク氏は「2023年にはスターシップに約20億ドルを投じる」と発言している。つまりスペースXは、今年度中に累計50億ドルの開発費を投入することになる。ここからNASAの提供資金を差し引けば、10億ドル(約1480億円、1ドル148円換算、2023年9月現在レート)はスペースXの持ち出しだとわかる。
ただし、その開発資金のすべてをマスク氏がポケットマネーで賄うわけではない。
株式が公開されているテスラとは違い、スペースXは非公開企業である。これは同社が軍事衛星の打ち上げを請け負い、中国への技術漏洩などを危惧した結果とも言われている。そのためマスク氏は、スペースXの株式をごく少数の資本家に託し、彼らから資金を享受している。
前澤友作氏もその1人だ。彼は月を周回するスターシップを、すでに1機まるごとチャーターしている。また、その他2名のビリオネアもスターシップのシートを購入済み。こうした有志によってスターシップの莫大な開発資金の一部は支えられている。