空力設計のイノベーション。目指すのは「風洞の民主化」

ローン・ジョシュア 日本風洞製作所 代表取締役社長 写真=帆足宗洋(AVGVST)

風によって影響を受ける乗り物や建築物、スポーツに欠かせない、人工的に風を発生させる試験装置「風洞」。

風洞による試験は国内・海外問わず、大小あらゆるメーカーの製品開発工程で実施される。しかし従来の風洞は、自動車を試験できるサイズでは小型でも数十億円、大型になると数百億円と非常に高額で、所有するのは大手自動車メーカーや研究に利用する大学に限られる。そのため中小企業などはレンタルでまかなうが、数に限りがあるため費用も自動車用の場合1日あたり数百万円と高く、さらにレンタルできるまでに半年以上の待ち時間が発生している。

そんな状況を打破しようと「風洞の民主化」を理念に掲げ、誰でも手軽に利用可能な風洞の開発に取り組むのが、日本風洞製作所代表取締役社長のローン・ジョシュアだ。同社開発の「Aero Optim」は、全長1.4m、設置に必要な面積は従来品の50〜60分の1と圧倒的に小型だ。

「ロケットエンジンを設計していたエンジニアや、軍用ジェットエンジンのエンジニア、自動車メーカーのエンジニアなど、優秀なメンバーが最先端の技術をもち込んで応用した結果、大幅に小型化できました」

導入コストも従来品の10分の1から100分の1という低価格で、試験の目的に応じて複数のユニットを組み合わせることが可能。量産前の試作機は、自動車や自転車、航空関連、ドローンなどの製品開発に利用されている。同社の小型製品は海外でも類似製品がなく、2021年に初めて海外で製品を披露した際は大勢の来場者が訪れるなど、世界でも高い評価を受ける。

ローンは大学4年生の時に起業。在学中に風洞の研究をしていた際、ツール・ド・フランスへ出場する自転車のプロ選手ですら、風洞を使って走行試験できるのが1シーズンでわずか半日と知り衝撃を受けた。それをきっかけに、自転車用を開発。その後、自動車など他の分野でもニーズがあるのを受け、汎用的な風洞を開発した。

「あらゆる企業が使えるようになると、業界全体の空力の設計のレベルが上がります。風の影響を受ける製品が、空気抵抗の小さい洗練された形状になる。例えば自動車や鉄道、船舶は、航続距離が長くなります。我々の風洞を使う企業がいい製品をつくるほど、世界が効率化し、CO2削減などSDGsへのインパクトも生まれます」

23年3月、静岡県沼津市に、自転車・自動車を試験できる一般利用可能な日本初の風洞試験施設を開所。製品は量産を開始し、来期までに欧州企業による導入を見込む。24年には100ユニット以上の出荷を目指す。

「やろうとしているのは空力設計のイノベーション。風洞を使える人と使えない人の差を埋めたい。それが『民主化』の原動力です」


ろーん・じょしゅあ◎日本風洞製作所代表取締役社長。1994年長崎生まれ、長崎育ち(日本国籍)。高校1年生より文科省予算のもと、長崎大学で風力発電機の研究を行う。九州大学進学後、特殊な風洞試験装置を研究し、開発した技術を製品化するべく在学中の2016年に同社を設立。

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文=加藤智朗 写真=帆足宗洋(AVGVST) スタイリング=千葉 良(AVGVST) ヘアメイク= KUNIO Kataoka(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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