暮らし

2023.09.02 17:00

ラオスのアマンタカで体験する、忘れかけた「シンプルで丁寧な」暮らし

リゾートから車で10分ほどのオーガニック農場で、ボンセンチャンさんの右腕でもあるノットさんから、実際にラオス料理を教えてもらった。
 
炭を熱源に、竹で編んだカゴでもち米を蒸しあげ、石のすり鉢で青パパイヤのサラダを作る。もち米は、以前いた外国人シェフに、「炊飯器で炊けばいいのでは?」と言われたこともあるそうだが、テクスチャがまったく異なるため、この蒸しあげるスタイルにこだわっているという。

食材は竹で編んだ蓋を被せた陶器の器の中に入れてあり、魚はバナナの皮に包んで蒸してゆく。プラスティックは見かけない。そんな昔ながらの文化が変わらず残っており、それが今の時代に求められているSDGsにも自然とつながっている。
 
料理の基本はスパイシーさと甘味と酸味。唐辛子で辛みを、タマリンドやココナッツシュガーなどで甘味を、ライムで酸味をつけ、ニンニクやシャロットを効かせた料理が多い。たっぷりの生のハーブなどの野菜を使うのも特徴で、ベトナムとタイに挟まれた場所柄の影響も受けていると言えるだろう(ちなみに、筆者は辛いものがそこまで得意でないので、唐辛子を減らしてもらった)。

完成した料理をいただくのは、すぐ隣の東屋で、青々として水田を見渡すデイベッドが設えられている。たった一組のために誂えられた、特別なプライベート感がアマンらしい。
 
日本の料亭では、青竹を削って作った箸を出してもてなしの気持ちを表すが、ここではそれはバナナの葉だ。青々とした葉で花の形を模った飾りの上に、料理が置かれている。ゲストごとに新しく作るのだという。
 
青パパイヤのサラダと、バナナの葉に包んで蒸したティラピア、豚肉と野菜のココナッツミルク炒めなどを食べていると、目の前を水浴びをした水牛が、ゆっくりと水田を横切っていく。数百年前の日本にも、こんな景色が広がっていたかもしれない。そんな、原風景を感じるような時間を過ごした。
シーワング総支配人は、「ラオスの原点となる、固有の文化とは何かを追求したい」と、山岳地帯に住む人々を招いて、ラオスの伝統料理を教えてもらうことも考えているという。
 
整えられたアマンタカの部屋に戻り、ラオス特産の緑茶をいただきながらくつろいでいると、ベッドにさりげなくかけられている布が目に止まった。聞くと、先日高齢のため亡くなった手織りの名人が何カ月もかけて織ったシルクの布なのだという。そんな緻密な手仕事が代表するような、丁寧な毎日のありようが、ここには息づいている。

産業化や効率化は決して悪いことではない。けれども、その反面、私たちは「シンプルで丁寧な暮らし」を忘れてはこなかっただろうか。
 
ここで過ごす時間の豊かさが、その価値を、改めて感じさせてくれた。3日間過ごしただけなのに、スタッフとはすっかり顔馴染みになった。顔を合わせるたびに、「今日はどうでしたか?」と声をかけてくれ、世間話をしてきたからだ。
 
「また、帰ってきてくださいね」。そんな家庭的な温かさが、ここアマンタカの魅力だろう。

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