小乗仏教を信じるこの地域では、僧侶は料理をすることを許されておらず、食事は托鉢で賄われる。遠くからバスに乗ってやってくる寺もある。
朝5時半から毎日行われる托鉢は、地元の人たちが家の外の道路脇に並び、蒸したもち米やお菓子を僧侶の鉢に入れる。アマンタカでも、ゲストがホテルの前で托鉢を体験することができ、温かい蒸し立てのもち米を鉢の中に入れていく。すると、傍に置いた水が祝福を受け、地面に撒くことで幸が訪れるのだという。
托鉢僧たちが足早に歩くのは、それが歩きながらの瞑想である、という考えからだ。中にはまだ小学校低学年と思われる少年僧もいるが、ラオスの村には小学校までしかないため、高度な授業を受けさせるために寺に子供を預けてそこで教育を受けさせることが多いのだという。
開業当初からドライバーとしてアマンタカで働き、フロントオフィスマネージャーになったボウンチュ・ジャルラッタナフォンさんもそんな一人だ。
コロナ禍を受けて2年半リゾートを閉めていたアマンタカは、去年10月にリオープン。ブータン出身で、アマンコラで18年働いたノブ・シーワングさんが総支配人に就任した。
「現代のラグジュアリーとは、ベーシックに戻ること。スローでシンプルな暮らしの価値が、今だからこそ求められている。豊かな自然に囲まれた小さな街だからこそ、時間を忘れてゆっくり過ごす。シンプルさの中にある質を追求したい」
そう語るシーワング総支配人の改革の一つが、調理場から化学調味料をなくしたこと。「ラオスは農業国としても知られる。自然の味の素晴らしさがあるのだから、余分なものは必要ない」という考えからだ。
そんなラオスの食材の魅力は、翌日、ルアンパハーン出身のスーシェフ、オンチャン・ボンセンチャンさんが連れて行ってくれた朝市でつぶさに目にすることになった。
目の前のメコン川からとれたばかりの、ひと抱え以上ある巨大な魚や蟹、生きたままのアヒルや鶏、蜂の子やキノコ、バナナの花、ロンガン、タマリンド。唐辛子やもぎたての野菜が並ぶ。売り子たちが、器用な手つきで植物の茎などを使って葉物野菜やハーブを束ねてゆく。
「郊外から農家がやってきてそのまま売っているのです。農薬や化学肥料を購入するのは高価なので、全部オーガニックです」という。
ラオスでは、温暖な気候から米は二期作が可能で、緩やかに蛇行するメコン川の恵みを受けた土は豊か。自然に従った農業が守られているのには、そんな背景もあるのだろう。