私がロールモデルになる
違いを感じたのはプレーだけではない。「海外選手はバスケットボールだけを考えているのではなく、普段の生活も違う。日本女子はオリンピックで実力を証明できましたが、私が外に行くことで、プレー以外のところも含めて世界の広さを伝えられたらいい」(ステファニー)姉も同じ問題意識をもっている。メディアに積極的に出るのも、競技だけにすべてを注ぎ込む日本のスポーツ選手のマインドセットを変えたいという思いがあるからだ。「セカンドキャリアという言葉が好きじゃないんです。選手の価値は現役時がいちばん高いのだから、むしろ輝いているときにスポーツ以外のこともやったほうがいい。私は面白いことをやる選手を増やしたい。自分がロールモデルになることで、『えっ、そんなことしてもいいんだ』と思ってもらえたらうれしい」(エブリン)
ただ、出る杭は打たれるのが日本社会の因習だ。ふたりの活動を応援する声がある一方で、非難する声もあった。心ない言葉を投げかけられれば落ち込むこともある。しかし、それも一瞬のこと。「自分の人生の責任を取れるのは自分だけ。いろんな人がいますが、『なんか言ってる』くらいのもの」(エブリン)とすぐ前を向く。
自分が信じる道を突き進める強さは、ふたりが育った環境と無関係ではないだろう。両親はガーナ人。姉妹は昔から体格が大きく、肌の色も違った。
「そもそも人と違いすぎて、まわりと比べる発想がなかったですね。自分は自分というか。本当は誰だって一人ひとりが人と比べられない存在だと思います」(ステファニー)
「母から『自分の魅力に気づきなさい』と教えられました。人が何と言っても、自分が自分のいいところを知っていれば、それが支えになる」(エブリン)
では、ふたりの魅力はどこなのか。
「私は行動力かな。妹はなんだろう、綿密な計画力?」(エブリン)
「やめてよ、綿密な計画って、なんか策士みたい(笑)。慎重派って言って!」(ステファニー)
走りながら考えるエブリンと、考えてから走るステファニー。同じ遺伝子を起源にもち、同じ環境で育ち、同じ競技をやっていても、個性はまるで違う。人は一人ひとり違う存在であることがよくわかる姉妹の会話だった。
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まうり・えぶりん◎バスケットボール選手、起業家。1995年生まれ。1年の休養期間を経て、2023年からデンソーアイリスに移籍。東京五輪銀メダリスト。
まうり・すてふぁにー◎バスケットボール選手。1998年生まれ。2023年からスペインリーグ・エストゥディアンテスに移籍。日本代表。