アワード設立を支えたナレッジワークCEOの麻野耕司はこう解説する。
「昔は世の中全体のニーズが顕在的だったんです。 一般家庭にまだテレビも冷蔵庫も車もない高度経済成長期の営業活動は、『なぜあなたの家にテレビが必要か』というアプローチではなく『うちのテレビの性能はこうです』と商品を説明するだけで事足りました。
しかし成熟経済期に入り、いまは世の中にさまざまなモノがあふれています。顧客のニーズが潜在的になり、営業の仕事は、顧客の状況を理解したうえで実現すべき理想や、解決すべき課題を先に提示していかなければ成立しなくなった。だから新時代の営業では『商品を売り込む』という意識を捨てなければならないのです」
営業職の変遷
「新時代の営業」を知るために、まずは営業という仕事がこれまでにどのような変化を遂げてきたのかを知る必要がある。『チャレンジャー・セールス・モデル』(海と月社)に寄せられたニール・ラッカムの序文によると、営業は過去100年の間に3度の「大躍進」を遂げている。1.およそ100年前「ハンター・ファーマー・モデル」と呼ばれる分業制度が発明されたこと。
2.1925年、E・K・ストロングの著作『ThePsychology of Selling and Advertising』で「営業を学ぶテクニックがある」と周知されたこと。
3.1970年、ラッカム自身の著作『SPIN』で「商談の規模ごとに有効なテクニックやスキルは異なる」という考え方が紹介されたこと。
1.から3.へと進むにつれ、営業という仕事が、個別の案件や顧客の意向を注視する傾向を強めていることがわかる。国内に目を向ければ、1990年代のバブル経済崩壊や、2020年以降の新型コロナウイルスの流行といった社会情勢のほか、2019年の福田康隆の著作『THE MODEL』(翔泳社)によって営業プロセスが4段階に分類できると紹介されたことの影響も大きい。営業は、時代にあわせ、イネーブルメントを高める大小さまざまな変化が積み重ねられてきた。
ただ、こうして着実に進化し続けてきているにもかかわらず「営業はつらい」というイメージは根強い。2019年のエン・ジャパン転職総合サイト「人事のミカタ」統計によると、営業職は「最も離職率が高い職種」であり、「新卒入社した営業部員の約8割以上が5月時点ですでに転職を考えている」(音声解析AI電話「Mi iTel」などを運営するRevCommの調査)などという、いたたまれない調査結果も発表されている。
事実、従来の営業活動は個人の出来高によるところが大きく、企業の営業成績=個人戦勝の集約であった。近年はテクノロジーの進歩によって情報戦が激化したことに加え、労働人口の減少に伴い、一人ひとりに求められる期待が膨らんだ。状況が厳しくなる一方で変わらぬ属人的な働き方が「つらい」仕事である印象を強めたことは疑いがない。