AI

2023.08.15 11:30

エヌビディア製AI半導体、対中輸出規制の強化は逆効果に

遠藤宗生

望まない結果につながる可能性

ここでの大きなリスクは、数週間前の会議でエヌビディアのコレット・クレス最高財務責任者(CFO)が指摘したように、強硬な輸出規制が結果的に、米国の半導体産業におけるリーダーシップを危うくする可能性があることだ。10月の規制はバランスの取れたもので、エヌビディアなどの米国製半導体の性能に緩やかな制限をかけた上で輸出を許可するものだった。そのような方針をとることで、中国のAI企業は米国のテクノロジーに依存し続けることになり、米国のAIデータセンターは中国のデータセンターよりも優位に立つことになる。

対照的に、半導体の性能を厳しく制限するアプローチは、最終的に中国国内の半導体産業の成長を促すことになる。中国の半導体メーカーはまだ大きな成果を収めていないが、すでに確かな実力を持っている企業も多い。筆者がAMDの幹部だった20年前は、中国の半導体メーカーは設計が得意ではなかったが、状況は大きく変わっている。

中国のAI企業が、かつては米国から調達していた半導体を国内メーカーに頼ることになれば、中国のサプライヤーがその需要に応えるために設計や生産能力を増強するのは自然な流れだ。これらの企業はまだエヌビディアやインテル、クアルコムのレベルには達していないが、進化を加速させるために、これ以上の理由を与える必要はないだろう。

米国の考え方の欠点

米国の通商政策の根底には、「小さな庭を高い壁で囲む」という考え方がある。これは、米国が主導権を握るニッチな技術の場合、他国が容易に追いつけないよう、その技術の周囲に高い壁を設けることを意味する。例えば、ステルス戦闘機を制御する精密な航空電子機器であれば、このアプローチは理にかなっている。しかし、AIテクノロジーに関してはこの考え方は通用しない。

AI分野を一つの庭だと考えると、そこに植えられた植物の種はAIソフトウェアのフレームワークであり、中国はすでにこれにアクセスできる。庭の植物は、使用されているAIモデルであり、これもまた中国のAI企業がすでに入手可能なものだ。エヌビディアは、庭を手入れするための最高のシャベルと剪定ばさみを提供するが、庭を手入れする方法は他にもある。つまり、その庭の周囲に高い壁を築こうとしても意味がないのだ。

AI半導体の輸出規制の強化は、米国政府による現実にそぐわない規制方針の新たな一例となる。エヌビディアがAI半導体で成功しているからといって、AI開発においてエヌビディアが絶対に不可欠だという論理は成り立たない。そして、これらの半導体を過剰に規制することは、米国がその技術的リーダーシップを失いかねないリスクを生む。

政府が検討している輸出規制の強化は、AIに対する一般的な不安と、米国の主要なライバルである中国に対する不安が相まったものだと考えられる。しかし、中国へのエヌビディアの半導体の輸出を制限することは、長期的に見て、米国の安全や競争力を高めることにはならないだろう。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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