「エラーのない半導体」をつくるシンガポールの宇宙スタートアップ

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地球で使用するために設計された電子機器を宇宙空間に持っていった場合、複雑なメカニズムが宇宙線や極端な温度の影響を受け、不具合を起こす場合がある。

「われわれは、宇宙空間で電子機器を故障から守るソリューションを開発した」と、ゼロエラー・システムズの共同創業者でCTOのウェイ・シュウ(Wei Shu)は話す。シンガポールの南洋理工大学(NTU)で電気工学の博士号を取得した彼は、放射線耐性を備え、故障の可能性を最小限に抑えた集積回路(IC)を開発し、2019年にNTUからスピンオフする形で同社を設立した。

以来、ゼロエラー社は、宇宙旅行などのディープテック分野でシンガポールを代表するスタートアップの1社となり、6月に実施したシリーズAラウンドでは、エアバス・ベンチャーズやダート・ファミリー・オフィスなどから750万ドル(約10億4000万円)を調達した。同社は、2020年にエアバス・ベンチャーズが主導したシードラウンドで250万ドルを調達しており、累計調達額は1000万ドルを突破した。

「ゼロエラー社が特許を取得した耐放射線強化技術は、宇宙エコノミーにおける重要なニーズに対応するだけでなく、地球でもさまざまな電力管理のユースケースに対応する」と、航空宇宙大手エアバスのベンチャー投資部門であるエアバス・ベンチャーズのパートナー、マット・コステスは話す。

ゼロエラー社は、信号にエラーが生じるソフトエラーの発生率が極めて低く、信頼性の高い半導体を製造している。同社のプロダクトは、衛星のサブシステムや探査機なのデバイスに搭載されている。ゼロエラー社は、放射線から保護する材料で覆われた市販回路のテストサービスや、90%の電力効率を達成できる電力管理ソリューションも提供している。

政府も企業も、宇宙環境に対応した技術を求めてしのぎを削っている。非営利団体「宇宙財団(Space Foundation)」のレポートによると、宇宙経済の規模は2021年に4690億ドルに達し、2026年には6340億ドルまで成長する見込みという。

ゼロエラー社によると、同社の最大の強みは低コストだという。多くの企業は、スペースXのスターリンクや、アマゾンのKuiper(カイパー)のようなメガコンステレーションを構築するために、一度に数千機もの衛星を打ち上げている。

「われわれが開発した新技術は、大手企業が提供する高額な製品と同水準の性能を実現でき、衛星を設計する顧客企業に自信を与えた」と、ゼロエラー社で事業開発担当の副社長を務めるHwai Lin Khorは話す。
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編集=上田裕資

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