キャリア

2023.08.02

シンママを土木業界で活用。画像解析で守る街の安全

森川春菜 オングリットホールディングス代表取締役

街中のゴミ収集車やバスが、人に代わりインフラ点検をするかもしれない。車載カメラに映る標識や電柱をAIで分析し腐食や落書き等の異常を検知するシステムを開発するのは、創業わずか5年のオングリットホールディングスだ。福岡に拠点を置く同社を創業した森川春菜は元専業主婦。

「子どもを育てながら働ける場所がない」。シングルマザーの友人から聞いた言葉が森川の心を揺さぶった。一方、夫が勤める土木業界は「猫の手も借りたいほどの人材不足」。老朽化が進む橋や電柱などの点検は技術者が目で確認し、手動で図面化するという人手と経験が必要な作業。人材の高齢化も進む。「未経験者でも使えるツールがあれば人材不足も解消できるのでは」。森川にアイデアが浮かんだ。

その後約4年をかけ、森川は家事や子育ての合間に国交省や自治体の点検要領のデータベース化を進め、それを夫がAI化、未経験者でもCAD図面作成ができるようにした。土木知識のない外国人留学生を集め、福岡市内の約200の橋梁を点検すると、仕上がった図面の質の高さが認められ、手ごたえを感じてオングリットを立ち上げた。

この橋梁などの写真から工事用CADデータを作成する「マルッと図面化R」は、福岡市のトライアル優良商品に認定された。

冒頭の車載カメラによるインフラ監視システムはゼンリンと共同で実証実験中だ。また、高所作業車に代わりポールの先に取り付けたドローンとAI画像解析を組み合わせ、信号のボルトのゆるみ等を検知するシステム「AeyeRpole」も開発する。AIにゆるみや亀裂等の様子を学習させるには画像診断や入力など、専門知識や出社不要な業務も多く、未経験者や障がい者などの人材を活用している。

森川自身も結婚を機に転勤の多い夫に代わり専業主婦に。「女性は環境に左右され、働き先を見つけることが困難になりがち」。就職弱者が働きやすい環境をつくりたいという森川の思いが、次世代の土木人材を生み出している。


もりかわ・はるな◎大阪府生まれ。医薬品卸会社勤務を経て結婚、専業主婦に。友人から仕事と子育ての両立の難しさについて相談され、就職弱者を人材不足の業界で活用する方法を模索し始める。当時ゼネコンの開発部長だった夫と協力し、専門知識なしで使えるインフラ点検用のデータベースを約4年かけて構築、2018年にオングリットを創業。

文=菊池友美 撮影=中村健太

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