・金融/非金融の融合による 課題解決力の進化(地域No.1のコンサルサービスの提供(環境、DX対応支援含む)など
・多様な人材が活躍し 活力あふれる企業風土の醸成
・持続的な成長を支える 経営基盤の構築
そしてこの3つを推進していくために必要な要素として、人材の育成・確保と組織風土の醸成を設定しました。具体的には、
・DX人材
・顧客企業に課題解決型営業をできるコンサル人材
・自社や顧客の脱炭素経営を支援するSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)人材
の育成や研修投資額という目標などを挙げています。企業風土は公募型のジョブチャレンジの増大を通じて挑戦するカルチャーを目指します。多くの専門的な人材を育てる目標を達成するには、プロパー男性以外の人材も必要でしょう。多様性やウェルビーイングに関しては、女性の働く環境作りを通じた女性管理職増加や男性育休増加、キャリア採用数の増加指標にも目標を掲げ、重視しています。
このようなナラティブは読みやすく、納得感があります。失礼ながら、現在の同社のホームページに掲載されている人材関連の情報は、分量は多いものの、北陸銀行と北海道銀行に分かれており、散発的でストーリーとはいいがたいものでした。この6月を契機に、見直されたのでしょう。人的資本開示の義務化が初年度で、準備時間がなかったと言い訳する企業が多い中、よくまとめられていると感じました。
対外的開示は、数年遅れて効果を発揮する
一方、このように「良い開示」の話をすると、「外向けの作文だけ上手なのでは?」と斜に構えた反応をされることがあります。いいえ、私は、対外的な開示の改善は、数年遅れて業績や株価に良い影響を与えると考えています。
実際に、良い人的資本開示が株価に影響を及ぼす事例もあります。三井化学は、この数年、ESG説明会などのIR活動を通じて、「財務と非財務の統合」思考に基づく同社の人的資本経営を伝えてきました。いったん開示すると、投資家やステークホルダーからのさまざまなフィードバックがあります。その中には現在働く従業員や、入社を検討している求職者の声も含まれています。それらのフィードバックを取り入れ、少しずつ改善することにより、三井化学の人的資本開示は実態を伴うものとなり、そして将来の利益へ結びつくロジックをより明確にしたと推察しています。
株式市場の同社経営陣への信頼は増し、株価は今年に入り上昇基調にあります。長くPBR1倍以下に苦しんできましたが、1倍前後になってきたのです。
有報などの投資家向け情報を単なる「作文」として捉えるのではなく、人的資本経営のPDCA(計画、実行、評価、改善)の道具として活用する。そうすることで日本企業全体の価値はより向上するでしょう。ナラティブを通じて、人的資本の重要性を明確にし、投資家との共感を深めることが求められています。