今期上場企業発行の全統合報告書を読んだ「組織風土改革の専門家」UniposCEO田中弦が解説する。
上場企業が発行するすべての統合報告書を読み、情報を整理し、さらに独自につくった格付け基準で開示充実度を5段階で評価した。評価指標は、1目標設定の有無、2女性活躍・残業など一般的指標の有無、3独自指標の充実度、4人的資本で解くべき経営課題の有無、5中期経営計画のストーリーとの連動の5つとした。
今回、日本企業の平均開示充実度は5段階評価で2.44だった。5点企業が上場企業中の4%(37社)、4点企業が15%(148社)だが、国内の5点企業の開示は海外企業と比較しても素晴らしいものと言える。今回は評価5点の「推しの統合報告書」をいくつか紹介する。
SUBARU、北國FHD、丸井グループ5点評価37社は、数字と合わせて必ず目標を開示している。例えば、SUBARUは2021年のエンゲージメントスコア(従業員満足度評価)50%を25年度に70%にするという。野心的に思える数値だが、同スコアの6つの先行指標は4年連続で上昇。経営・マネジメント層を対象に相当な時間を要するプログラムも課しており、同社の本気度が人的資本開示からうかがえる。
9割以上の会社はよい指標のみを開示しているが、課題がない会社などない。本来、課題は「伸びしろ」である。北國フィナンシャルホールディングスは、従業員に「友人に職場を勧めたいか」を尋ねた職場の推奨度「eNPS(Employee Net Promoter Score)」を開示している。推奨者(6.6%)から批判者(59.0%)を引いた同社のeNPSは-52.4%だ。
開示が躊躇される悪い指標に思えるが、背景には大幅な体制変更がある。地域特化型銀行への転身のために海外支店撤退、銀行業を超えたコンサルサービスの開始。組織はまさに揺れ動く真っ最中で、eNPSが低くて当然の状況とも言える。同社はその組織課題を示すKPIとしてeNPSを開示。今後は「従業員のキャリアプラン明確化」等の打ち手でeNPSを改善し人的資本を向上させるという。
こうした開示ストーリーがあれば「課題も打ち手も明確で期待できる会社」というステークホルダーの評価も狙えるだろう。NSG(日本板硝子)グループやアサヒグループホールディングスも、従業員調査から数値の低いものも「改善すべき組織課題」として開示している。