「モノを売る、と言うのではなく、体験をシェアしたい、そういう思いで作っているのです」とフレベル氏。そんな文脈で、今、注力するのは、5月まで行われた「ノーマ京都」にインスピレーションを受けた製品の開発だ。
「例えば、日本の昆布と鰹節を使った『Dashi RDX(濃縮出汁)』はノーマ京都に結びついているとても大切なプロダクト。ビーガンXO醬も、鰹節から着想したカボチャ節、かんずりから作ったスモークかんずりオイルが入っているなど、その味や製法は日本に由来しているものが多い。
京都に行かなかったとしたら、似たようなものが生まれたとしても、私たちがそこまで愛着を持つものにならなかったかもしれない。ノーマも席数が限られていて、多くの人は体験する機会がない。京都に行ける人はさらに限られる。そんな体験を、より多くの人に共有したいのです」
2階のオフィススペースには、オーストラリア、メキシコなど、過去のポップアップで使ったノーマの看板が並べられ、飾る場所を今考えている最中だという。一般に販売すると言っても、自分たちの心により近いものを、という考えは変わらない。
フレベル氏は、「この場所は、新しいマーケットに対するテストキッチンであり、可能な限りフレキシブルな場所にしていきたい。サイズがこれまでのラボの8〜9倍になった分、できることが増えました」と嬉しそうに語る。それは、工房を超えた、クリエイションのための、新しく巨大な「頭脳」の構築のようにも見えた。
「24年末にノーマを閉店後は、レストラン全体を巨大なラボにして、チームは新しい知識を学ぶためにポップアップを続け、数年たってこの事業が軌道に乗ったら、再度コペンハーゲンに戻り、レストランを再開したいと思っています。まだ具体的なレストランのスタイルの詳細は決まっていませんが、もちろん、これまで通りのファインダイニングである可能性もあります」と、レゼピ氏。
未来のことは誰にもわからない。このラボは、よりイノベーティブな創造を生み出すための、ノーマのDNAが埋め込まれた巨大なICチップとなるのかもしれない。
レストランは生き物だ。変わり続ける環境に順応した答えを出すこともあるだろう。このノーマプロジェクトは、そんな可能性に向けた、より大きな受け皿にも見えた。