食&酒

2023.07.30 11:00

「ノーマプロジェクト」拠点で見た、生き物としてのレストラン

ノーマ ヘッドシェフのケネス・フォーン氏

場所はノーマから徒歩15分ほどの元倉庫街で、新しい星付きレストランや雰囲気のいいカフェなどが次々にオープンし始めた再開発地区。もともと宅配惣菜の工場だったところを、大幅に改装したのがノーマプロジェクトの発信地となる。
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真っ白な清潔感あふれる内装で、広さは約800平方メートル、日本なら2〜3階建て相当の吹き抜けの高い天井が印象的だ。ロフト状の中2階にはオフィスがあり、パソコンを前にすでに数人のスタッフが働いていた。

1階には、ソースを作るための温度管理ができる400リットルのスチーマーが4台、機械式の石臼のほか、大型冷蔵庫ほどのサイズのオーブンが3台、鍋やレードル、計量カップなどが置かれているが、どれもレストランの厨房で普通に使われているものだ。

ノーマプロジェクトは、あくまでも手作りが基本となる。おそらく、収益だけを考えるなら、ノーマのブランド名を冠したものを、外部委託して作るのが一番簡単だろう。しかし、そうはしなかったのは「ノーマらしさを、どのプロダクトも失わせたくない」と言うレゼピ氏のこだわりだ。

案内してくれたフレベル氏も、「多くの材料は、自然から採集してきたもの。今の時期なら松の新芽ですが、例えば天候不順などで採れなければ、当然生産量は減ります。それが、自然に従ったプロダクトづくりだから、無理に生産量は増やしたくないのです。自然を反映するのがノーマらしさなのですから」と話す。
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生真面目なまでの、アイデンティティの追求が、そこにはある。

実際、作られたプロダクトはノーマの料理に使われている。もちろん、家庭でノーマと同じような、手のこんだ料理を作ることは非現実的ではあるものの、買った人はその「本物の味」を経験することができるわけだ。

現在このプロジェクト専属で働いているのは10人だが、当然ながら、レストランチームとの関わりは深い。研究開発チームトップの髙橋惇一氏も、「僕たちノーマのチームが、実際に採集にも参加します。例えば、『野バラのビネガー』に使う野バラは、5枚しか花びらがない。それを何百キロも集めるのは、相当大変でした。もちろん、どうしても足りない場合は譲ってもらうこともありますが」と語る。

人気だったことから今夏は1万本の制作を予定しており、そのためには野バラの花びら1.2トンを集めなくてはいけないそうだ。

工房内ではすでに新製品の研究開発が進み、「エルダーフラワー味噌」の樽が熟成中のほか、「たまり」の製造が進み、温度と湿度が管理された「麹室」では、伝統的な蓋麹の手法で、イタリアのオーガニック米と日本の麹菌を使った麹が発酵中だった。

「ノーマ京都」のポップアップの料理にも使われた、日本の鰹節の作り方にインスピレーションを受けた「かぼちゃ節」の撮影、新しい松の新芽のオイルの試食が行われていた。さらに、オイルなどを作って残った食材を使って紙を作るなど、「可能な限り、無駄を出さない」研究も進められていた。
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文・写真=仲山今日子

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