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2023.07.31 08:00

こだわり牛肉のサブスクで年商800億円、米ButcherBox成功の理由

そのため、サルゲーロはブッチャーボックスをビジネスにしようとしたとき、ベンチャーキャピタルからの資金調達を拒否した。その代わり、彼は1万ドル(約140万円)の自己資金を投じて、2015年にKickstarter(キックスターター)でキャンペーンを立ち上げた。すると、初回出荷分のおまけとして提供された無料のベーコンに引き寄せられた顧客たちが押し寄せ、サルゲーロは株式を手放すことなく2万5000ドル(約350万円)を調達した。キャンペーンは初日に4万ドル(約560万円)を達成し、ブッチャーボックスは1カ月も経たないうちに21万ドル(約3000万円)の資金を確保した。

キックスターターで提供される無料のベーコンは同社の看板となり、最初の1年間で売上は500万ドル(約7億円)に達した。2017年には、天然のサーモンも扱うようになったため、売上は3300万ドル(約46億円)に増加した。さらに、2018年には1億500万ドル(約210億円)を突破した。

競合のIPOと株価の急落

ブッチャーボックスの誕生は、業界にとって興味深いタイミングだった。2017年には、レシピと食材を顧客に届けるミールキットのスタートアップであるブルーエプロンが20億ドル(約2800億円)の評価を得て上場し、その後の株価の下落の中で、毎年何百万ドルもの損失を出しながら、農家との長期契約に巨額の投資を行った。

一方、同じくミールキットの競合であるハローフレッシュも同じ年に上場し、投資家たちは、新たなサブスクが食料品業界に革命を起こすことを期待した。しかし、彼らは無料で多くのものを提供しすぎ、複雑なロジスティクスの中で迷走してしまった。

「ミールキットが軌道に乗り始めたとき、その期待は飛躍的に高まり、どの企業も先を急ぎすぎました」と、Benchmark(ベンチマーク)のマネージング・ディレクターとしてブルーエプロンの動向を追うダニエル・クルノスはフォーブスに語った。「特にブルーエプロンは、キャパシティを拡大しすぎました。彼らはビジネスが指数関数的に成長すると期待していましたが、そうはならなかったのです」

ブルーエプロンの時価総額は、IPO以降に99%以上も減少し、ハローフレッシュは黒字になったとはいえ、株価は2021年8月の史上最高値から76%下落している。一方、ブッチャーボックスは、不透明な経済情勢の中でキャッシュを積み増すことに注力しているという。その資金は、今後の事業拡大の際、苦境にあえぐ企業を買収するために使われる可能性もある。

ブッチャーボックスが顧客に支持される理由の一つが品質へのこだわりで、同社は事業の拡大よりもそれを維持することを優先している。例えば、2020年には豚肉の需要が急拡大し、既存の調達元のニマンランチからの供給だけでは足りなくなった。しかし、ブッチャーボックスは他社から品質が劣る豚肉を仕入れるのではなく、新規の顧客の受け入れを一時中止して、クオリティを維持した。

ブッチャーボックスは現在、配達の度に無添加のベーコンを無料で提供する「ベーコン・フォー・ライフ」といったキャンペーンで新規顧客を獲得し、ユーザーベースを拡大している。「私たちは、ますます気まぐれになり、ますます獲得が難しくなっている顧客を相手にしています」とサルゲーロは話す。

事業の成長はほぼ横ばいだが、既存顧客は1回の注文に平均200ドル(約2万8000円)以上と、これまで以上の金額を費やしている。また、新規のメニューも追加しており、昨年4月に発売されたチキンナゲットはこれまで1200万個以上も売れたという。さらに、最近は独自のペットフードのラインも追加した。

「私たちは今、非常にユニークなポジションに立っており、それを変えたくないと思っています。でも、絶対に株を売らないとか、外部から資金を調達しないと言っているわけではありません。何だって可能なんです」とサルゲーロは語っている。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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