経営・戦略

2023.07.25 11:45

33期連続増収増益。ドンキの強さをつくった権限委譲カルチャー

(左)PPIH 創業会長兼最高顧問 安田隆夫/(右)PPIH代表取締役社長CEO 吉田直樹

「源流」に迫力のある言葉が並ぶのは、それが矛盾に満ちた人間の本質を出発点としているからだろう。それゆえ社員から見ても、天からの啓示のように上から降ってくるのではなく、地の底からはい上がってくるかのように言葉が「はらわた」に響くのだ。

権限委譲の真髄

では、「源流」には具体的に何が書いてあるのか。独自の成長を遂げる原動力になった権限委譲については、「権限委譲の風土と歴史、文化は、当社グループにおける最も誇るべき最強のDNA」と明記されている。
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ポイントは、評価と一体化している点だろう。「源流」では、権限委譲と評価を「車の両輪の関係」になぞらえて、「評価なくして権限委譲なし」と位置づけている。

「評価は、貢献利益をいかに上げたかというところに収れんさせています。細かいところを規定すると権限委譲の意味がないし、何十項目もあるとそれを足したときに実態と乖離するケースも起きてくる。最終的な貢献利益にフォーカスするから、現場は自分の責任で試行錯誤します。だから学習効果も高い。お世辞抜きで、現場の社員やメイトさんの平均値は日本の流通業で最も高い」(安田)

吉田には忘れられない記憶がある。コンサルタントだった吉田が安田に出会ったのは、2005年、オリジン東秀にTOBを仕掛けたときだった。チームのなかに入ってプロジェクトを担当して、07年に入社した。安田の懐刀である会長室長として活躍していたが、ある土曜日に突然電話がかかってきて、「権限委譲とは何か」と問われた。
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「当時は『源流』ができる前でしたから、自分なりに一生懸命考えて答えました。しかし、安田はなかなかオーケーを出してくれません。30分以上同じ問答を繰り返した後、ようやく『権限委譲とはプロセスコントロールをしないこと』と教えてくれました。実はそのころ私はある案件で、法務部長に対してかなり細かい指示を出していた。それが安田の耳に入り、そのやり方ではダメだと気づかせたかったのでしょう」(吉田)

【33期連続の増収増益達成のPPIH】1978年、すべての始まりである「泥棒市場」が誕生した。その後89年にドン・キホーテ1号店が東京府中市にオープンして以来、同社の売り上げと、成長に伴う従業員の数は右肩上がりだ。98年に東証銘柄となって以降、さらに成長は加速する。2007年には長崎屋を、19年にはユニーを子会社化し、売り上げはついに1兆円を超えた。

【33期連続の増収増益達成のPPIH】1978年、すべての始まりである「泥棒市場」が誕生した。その後89年にドン・キホーテ1号店が東京府中市にオープンして以来、同社の売り上げと、成長に伴う従業員の数は右肩上がりだ。98年に東証銘柄となって以降、さらに成長は加速する。2007年には長崎屋を、19年にはユニーを子会社化し、売り上げはついに1兆円を超えた。


最終的なゴールだけ共有して評価の対象にして、途中のやり方は全面的に任せる。それが「源流」で説かれた権限委譲の神髄である。ただ、なかには苦戦する社員もいるに違いない。失敗が目に見えているときはどうするのか。安田はいまでも店舗を回っているが、「おかしいと気づいても何も言わない」という。

「本人にしてみれば、自分の優先順位があって、まだ手をつけてないだけかもしれません。そこに私がやってきて、『できてないじゃないか』と指摘するのがいいことなのか。私の指摘は“事実”であっても、現場にとっては“真実”ではない。表層的なことを指摘するなら、黙っていたほうがいい」(安田)むしろ安田が意識しているのは社員を誉めることだ。「源流」には、「『誉める』とは、相手がひそかに誇りをもっていることを見つけ、認めることである」と書かれている。
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文=村上 敬 写真(人物)=苅部太郎 編集=坂元耕二

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