「研究者」の新ビジネスモデルを模索
岡田:研究者への支援のあり方を考えるとき、「クリエイターエコノミー」の考え方はヒントになると考えています。例えば音楽業界では、メジャーレーベルと契約せずにデジタル配信サービス「TuneCore」などを通じて楽曲を配信し、ファンベースを形成していく中間層のアーティストが増えています。大手と契約しないからこそ、自らの手で持続可能なビジネスモデルをつくる必要があるわけですが、アカデミアの世界でも同様の動きが増えていく可能性があるのではないでしょうか。
今後、大学のアカデミック・ポストが減ることが避けられないなか、デサイロの理事のひとりである人類学者の磯野真穂さんのように独立研究者のキャリアを選ぶ方が増えていくかもしれません。
デサイロも「アカデミックインキュベーター・プログラム」という公募制で研究助成金をお渡しするプログラムを準備していて、そこでは研究資金の提供も行いますが、重要なのは対処療法ではなく、構造的課題を解くことだと考えています。一般市民向けの講座やファンクラブの開設、企業や行政の有識者リサーチへの参加など、研究者の特性に応じた多様なマネタイズポイントを共に考え、持続可能なビジネスモデルを構築するために伴走していく予定です。
まだ道半ばではありますが、Web3のテクノロジーやブロックチェーンを用いて現代科学が抱える諸問題を解決しようとする「DeSci(分散型サイエンス)」の仕組みを応用した資金調達なども視野に入れています。
安田:僕がお手伝いしているエッセンスでも、さまざまな研究者の存在を世間に知ってもらってファンをつくり、いわば「推しエコノミー」を生み出すことにチャレンジしています。
まずはさまざまな研究者の研究内容をウェブメディアで紹介することから始めているのですが、今後はプラットフォーム上で、ファンの方が研究者や研究プロジェクトを直接支援できるような仕組みをつくっていきたいです。
例えば、トークンを発行してファンがそのトークンを研究者に付与することで、何かしらのメリットをファンと研究者がお互いに享受できたり、トークンのやり取りを通じて、ファンと研究者のマッチングだけでなく、ファン同士や研究者同士もつながっていったりする。そんな「推し」トークンの仕組みがつくれないか、と考えています。
岡田:昨今は政府などの公的機関からの資金に頼るのではなく、個人が社会課題のためにお金やリソースを出し合う「フィランソロピー」の重要性が増していますよね。人文・社会科学の研究支援という観点でも、科研費などの公的資金だけではなく、民間のさまざまなプレイヤーによる資金やリソースの提供が重要になっていくように感じています。