経済・社会

2023.07.16 17:00

人文・社会科学の現在を問う。アカデミアと社会をつなぐ未来への論点とは

Forbes JAPAN編集部
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いま必要な「新しい物差し」

岡田:一方、安田さんもエコノミクスデザインの創業やエッセンスの顧問、そしてメディアでの積極的な発言を通して、研究と社会の接点づくりに取り組まれていますよね。

安田:研究者のキャリアについて議論する際、大学“外”で研究を続けられる道や人材を増やす方法を考えることが重要だと思っているからです。

岡田:そうした大学“外”での研究者の選択肢を少しでも増やせるよう、私たちデサイロも試行錯誤しているのですが、ベンチマークにしている先駆的な取り組みのひとつが、安田さんも参加されていた「東京財団仮想制度研究所(VCASI)」なんです。

安田:VCASI主宰の青木昌彦さんはとにかく面白い方を引っ張ってくるのが上手で、とても魅力的なメンバーが集まっていました。青木さんのビジョンや人柄に引かれたメンバーたちがほとんど手弁当で活動に参加していて、金銭以外で動機付けされた集団でしたね。そういった意味で、VCASIは学術的なプラットフォームの理想型のひとつだと思うのですが、イチから同じような場をつくるのはとても大変なことだとは思います。

柳澤:私がデサイロに参加しているモチベーションとしては、アーティストやクリエイターとのコラボレーションを通して、これまでになかったような探求ができる点も大きいです。

岡田:そうして普段の研究では触れ合えない異分野の人々と一緒に横断的な活動に取り組むこと自体が、研究者としての評価に結びつくのが理想ですよね。

例えば、「生産的相互作用」という研究評価の指標が最近注目されています。研究そのものを評価するのではなく、「知識交換」のネットワークの拡大や産業界や行政、NPO、市民などの多様なアクター間における相互作用のプロセスを評価する考え方なのですが、デサイロという場がハブとなり、研究と社会を橋渡しすること自体が研究者としての評価につながるシステムをつくれないかとも考えています。

安田:もちろん、研究業績以外の評価軸をもち込むことには、冒頭でも議論したようにリスクも伴います。しかしながら、「弊害があるので一切その物差しを使わないようにしよう」とする姿勢が、実はいちばん危険ではないかと思っています。適切な物差しがないのなら、あるいは既存の物差しがゆがんでいるならば、それらをなくすのではなくて新しい物差しを足していく。そちらのほうがはるかに健全ではないでしょうか。
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文=鷲尾 諒太郎 写真=若原瑞昌、井上陽子

この記事は 「Forbes JAPAN 「 最高の働き方」を探せ!CREATE THE WAY YOU WORK」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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